預けられし定め 第四話



 温泉を擁する大きな宿の裏にある小屋に取り付けられた竈から煙が立ち上っている。その内に焚かれていた火は既に止んでいたが立ち消えてから然程時間が経たぬ様子だった。
 小屋の内に組まれた工房の内で、その竈の中で熱され続けてきたものが鋳型へと流し込まれる。深い青を湛えていたはずの鉱石は、天に瞬く星の光の如き青白く眩い輝きを宿した剣の形をなしていた。

 それより程なくして、剣が金床に横たえられ、鎚で打つ音が鳴り響く。常々携わってきた鋼鉄を叩き直すそれとは異なる、異質な冷涼さを帯びた音色だった。

――なんだってんだ、この感覚は……

 然るべき行程を踏んだ後にいよいよ取りかからんとした途端に、カフウは何かが変わっているという違和感を憶えていた。
「ふん……」
 これまで数多の金属を武具の形となしてきた経験をいかんなく発揮して、確かに望み通りの形と化した。だが、それを仕上げた者達の顔に、満足した様子はない。

「……これ以上は時間のムダってモンだな。なぁ、旦那。」

 僅かに苛立ちを乗せて嘆息した後に、カフウはそれをひとしきり眺めた後に、鎚を下ろしながら相棒に向けてそう告げていた。
「ああ、先生。しかし、コイツは……。」
 それに応じるように打つ手を止め、カンダタもまた金床に横たわっているものに目を向けた。灯に照り返されるその傷跡残る顔には、明確に怪訝な表情が刻み込まれている。 
「ふん、これでもてぇした品ってのは確からしいが、さて……。」
 仕上げを間近に控えた段階に留まる今でも、触れ続けることとなった二人にはそれの持てる本質の一端を解することができた。培ってきた経験と勘を頼りに、剣として必要とされるものは全て与えたはずだった。
 だが、いざここまで手順を踏んだ先に憶えたのは、例えようのない虚しさだった。一体この上何を自分達に、この剣に望もうというのか。




 その明確な答えが得られぬまま、明けぬ朝を迎えた。

「なるほど、やはりもう仕上がっていたか。」

 朝食の折りに依頼者である三人を呼び出し、この数日打ち込んだ成果物を彼らの前へと差し出す。
 先に然程の手間はかからないだろうと聞かされたとはいえ、完成の報せまでの期間としてはあまりに短い。先にそう感じていたのか、ホレスは実物を目にしたとき、微かながらも驚きを隠せぬ様子だった。

「これが、新しい剣……」

 水のように澄んだ色合いを持ちながらも、磨き抜かれた広刃の刀身には重厚さを感じさせる鈍い光沢が宿っている。形こそ見慣れたものと同じであれ、その隅々に刀匠が与えた技が込められているのが分かる。そして、それを収めるのは良質の黒い鋼の鍔と白い晒が捲かれた柄という武骨ながらも、扱う者に合わせて作られた拘りが感じられる。
 メルキドで見つけた金属とバラモスが携えていた王者の剣の欠片。それらを用いて作られた新たな剣に、レフィルは吸い寄せられるように見入っていた。
「流石はカフウさん。王者の剣まで直しちまうなんて、驚きましたよ。」
 失われたはずの伝説の武具がまた新たな姿を得て作り直された様を一目見ようと、用心棒の青年とその恋人の姿もあった。王者の剣がゾーマによって砕かれたという話は広く伝わっていた。よもやその再び表舞台に出る時に立ち会えるとは思わず、デビッドの口調に興奮が入り混じっているのが窺える。
「まぁな。たったこんだけだが、やるこたぁやったつもりだぜ。」
 だが、ここに集まった面々が見せる好奇の眼差しと裏腹に、カフウは何処か納得していない様子だった。
「何かあったのか?」
「……ああ。一体何だったんだよコイツは。上っ面だけの体たらくなんて笑えねえぜ……。」
 その様子を察してホレスが言葉を促すと、カンダタが剣を一瞥しつつそう愚痴を零していた。明らかな失敗の品を作ってしまったように落胆と疑惑を露わにしているのが、顔を覆う黒い覆面ごしにも伝わってくる。
「ま、おれとしても、長いこと刀打ってて初めてのこった。だから旦那の気にするところじゃあねぇ。」
 それを宥めるように言葉をかけるカフウでさえも、やはりその気持ちは消えずに残っている様子だった。
 己が持てる力の全てを叩きこんだという確信がある中で自分達の与り知らぬ所での過ちがあるとすれば一体何にあるのかがまだ頭から離れない。
 或いは最初からあの物質と王者の剣を蘇らせるのは、自分達が持ち得る技ではできないのかもしれない。そのような可能性もまた、頭を過ぎっていた。
「これで失敗、なんすか?」
「そうだな、お前らも持ってみれば分かるぜ。」
 ホレスが指摘してから後ろめたさを露わにする二人の刀匠の言葉。用心棒――デビッドがそれに疑問を投げかけると、カンダタは剣を指差した。言葉にするよりも実際に体感した方が早いということか、それに従うままに剣を手に取った。
 直後、デビッドは首を傾げながら剣をしげしげと眺めていた。期待していたものと違う感覚を前に困惑しているのか、思わずカンダタの方を振り返っている。
「な?重心一つとっても安定しちゃいねぇだろ?」
「マジでこれが王者の剣……?」
 その反応に対して確信を得たように、カンダタが違和感の正体の一端を告げる。これまでにも王者の剣と呼ばれる贋作の類は出回っていたが、少なくとも呪いに依らぬものでさえ、剣としての最低限の性能は備えていた。
「なるほど、これは手に負えないわけだ。単純に重心がおかしいだけの話ではない。」
「ああ……とてもじゃねぇがまともに扱えねえよ、こりゃ……。」
 だが、これはそもそも扱うこと自体ができない。操る者を選ぶと言えば聞こえはいいが、使いものにならない品を作ったとあれば、刀匠としては失敗作と言わざるを得ない。
 未知な部分が数多いとはいえ十分な備えから作り上げたはずの品が持つ不確定要素。それに翻弄される二人の刀匠に微かに憐憫の情を抱きながら、ホレスもまたそれに触れていた。あの鉱石と王者の剣の欠片を長い間携えていた彼でさえも、剣の持ちうるものが本来あるべきそれと異なるとすぐに察することができた。
「……使い難い。」
「だろうな。」
 ムーが無言で横から手を伸ばしてくるその好奇心を汲み、黙って剣を手渡す。それでも返ってくる答えはやはり今の流れを変えるものではなかった。
「何だか、反発されてる。」
「お前もそう感じるか。」
 かつての境遇から多少は嗜みこそすれ本来剣を扱う戦いをしない者としての感覚からか、ムーは純粋な剣としての扱いやすさとは異なるものを訴えていた。
――何が足りない?
 その正体こそ分からずとも、カフウとカンダタの技に間違いがないという裏付けの一つにはなりえる。ホレスもまた、オリハルコンと呼ばれたものに対して与えるべきものがまだあるという考えに至っていた。

「ちょっと貸して。」

 いつしかムーの側に歩みよりながら、レフィルは彼女が持つ剣の柄に手を添えながらそう告げていた。
「レフィル?」
 語気こそ弱くとも、その彼女らしからぬ何かを強く欲する剣幕を前にムーは思わず首を傾げていた。だが、それも一瞬のことですぐに言われるままに剣を差し出した。
「…………。」
 ムーが手放した剣を受け取ると、レフィルはおもむろにその切っ先を右手に持ち替えて虚空に構えた。その一連の動作は、他の誰が手にした時よりも自然なものだった。
「ほう、ならこいつで試してみるか?」
 剣の持つ特異性に振り回されることなく佇むレフィルを見て感心した様子で、カフウは席を立って部屋の片隅から古びた金床を持ちだした。確認のつもりなのかこちらに一瞥するのに頷いてやると、レフィルは剣をそれに向けて振り下ろし、瞬時に軽快な動作で再び構えた。
 次の瞬間、剣が辿った軌跡に沿って金床に線が走り、左右に分かれて鈍い音を立てながら崩れ落ちた。
「うへぇ……」
 これ程鮮やかなまでに物が斬り裂かれる様は他に見たことがなかったのか。デビッドは思わず間抜けなまでの声を上げながら目の前の光景を茫然と眺めていた。
――やっぱり、怖い子だわな……。
 分厚い鉄塊を押し潰すような重みがありながらも、鏡面の如き断面を残す程の鋭さも兼ねている。これが先程まで訝しんでいた剣と同じものなのか。そして、それを容易く操ってみせた彼女にもその力量に対しての恐怖を、デビッドは禁じ得なかった。
「へえ、やるじゃねえか嬢ちゃん!そんなじゃじゃ馬な剣までそこまで使えるなんてよ!」
「そ、そんなことないですよ……。お二人がわたしのために調整してくれなきゃこんな……」
 扱いの難しい剣を容易く扱いまさに伝説に相応しい力を体現してみせた様に心底惚れ込んだように、カンダタはレフィルを褒め千切っていた。抱きつかんばかりに詰め寄るカンダタの勢いに押されるままに慌てて、レフィルは返す言葉に窮していた。
――でも、わたしも拒まれている……?
 その影で、カンダタの言葉からレフィル自身がこの剣を扱うに際して感じたことを省みていた。レフィルもまた、他の皆が憶えたような剣の違和感を受けなかったわけではなかった。少なくとも彼女自身は、剣のそうした性質を把握することで、少しでもそれを抑えたという程度の感覚しかなかった。
 神話などで謳われているように、実際に選ばれし者にしか操れぬ類の品であるとすれば、それに叶うための資格とは何なのか。
「王者の剣……ホンモノなのか?」
「そうだなぁ、これだけ手ぇ抜いて作ったってのにとんでもねえ物が出来ちまったもんだ。」
 レフィルの手によって、明確な形で剣自身のずば抜けた強さを証明することとなった。だが同時に未だに肝心な所が掴めずに謎深い品であることも分かった。
「結局は素材の力だろうよ。一介の鍛冶師に過ぎねえおれ達だけで再現できりゃ苦労はねぇ。それでも、おめぇさんに合う品が作れたのはせめてもの救いだ。気持ち程度でも手を加えた甲斐があったぜ。」
 何より、カフウ達程の鍛冶師でも、王者の剣を構成するオリハルコンに対して殆ど働きかけることが出来なかった。剣として見事な品を作り上げることはできたが、それは結局王者の剣の再生というだけの話だった。
「そのお気持ち、確かに受け取りました。それがなかったらきっと……」
「嬉しいねぇ。冥利に尽きるってモンだ。」
 だが、使い手のために細部に工夫が凝らしたことは、レフィル当人にはっきりと伝わったらしい。ただそれだけでどうにかなる程度のものとは思えないが、それが少しでも彼女の助けになるのであれば本望だった。
 或いは、自分達が丹精込めて吹き込んだ魂とも呼べるものがこの操りづらい剣に少しでも伝わったとも思いたかった。
「とりあえず、買うなら代金は言い値で良いぜホレスさん。お前さんの方がこいつの価値をよっぽど分かってるようだからな。」
「素材となったオリハルコンの値打ちは22500、王者の剣の値段が35000。それらの差額で12500ゴールド。それでどうだ。」
「ああ、構わねえ。一応元は伝説の武器だもんな。それぐらいはしねえと格好がつかねえしな。」
 かなり問題を抱えているものの、この剣を振るうべきレフィルが十分満足しているならば、受け取るだけのことだった。釈然としない様子ながらも、互いに合意した取引の上で、カフウの手によって再生された王者の剣はレフィルのものとなった。

「おれ達はこれからまた新たな剣を作るための素材を集めに行く。ホレスさん達も……出発するんだろ?」

 王者の剣を蘇らせることには成功したが、それも所詮は誰しも扱えぬ失敗作に等しいものでしかない。それが目指すべき品となりえなかった今、同じ目標の下に新たな剣の作製に向かうだけである。
「そうだな。」
 ホレス達もまた、次の目的地については既に決まっていた。図らずも休息を終える前に新たな武器が出来たが、そうでなくとも、そちらへと出発する予定だった。
「ガライ、聖地に建ったあの塔にルビスが封じられているという話だったな。」
「うむ。聖地が魔の者に侵された時より、この闇の帳がアレフガルドへと降り、精霊神ルビス様はその塔の頂きに封ぜられたと噂されておったよ。」
 大魔王ゾーマの台頭がアレフガルドを震撼させ始めていた頃、それに呼応するように精霊神ルビスを祀る聖地に悪しき者達が押し寄せていた。彼らの手によって聖地は踏み躙られて、その瓦礫の上に数多くの罠が仕掛けられた塔が築かれることとなる。
 やがてゾーマの手によってアレフガルドが完全に闇に覆い尽くされた時、ルビスが封印されたと人々の間で噂されるようになった。
「レフィル、ムー。ラダトームで俺が話したこと、憶えているか?」
「”天より降りしきる雨に太陽の光交わりし時、聖地に虹の礎現れん。其を携えしは、神の寵愛を賜りし人の子なり。”、たぶん。」
「……よくそこまで憶えているな。」
 尋ねられて咄嗟に自分が以前語った伝承の一端を、一字一句違わずに述べて見せたムーに呆れかえりながらも、ホレスはこれからの目的に関わる事柄へと話題を移していた。
「神の寵愛…。まさかそれが精霊神と…?」
「おそらく、ルビスに纏わる品が鍵となるはずだ。」
 自分達がこれまでに手に入れた虹の橋の伝承に纏わる二つの神器――太陽の石と雨雲の杖だが、それらだけでは伝説の再現には至らなかった。
 他に想定できる必要な条件として、最初に思い当ったのは聖なる祠と呼ばれる地の存在だった。マイラの北西の地がルビスを奉る聖地であるならば、聖なる祠は虹の橋に纏わる聖地と言える。
「ホレス……?」
 そして、神の寵愛とはルビスに纏わる品がそれに当たるとホレスが予測していたのはすぐに分かった。だが、その言いように何か引っかかるものを感じてレフィルは首を傾げていた。
「やはり行くんだな、ホレス。」
「ああ。確かめる必要があるからな。」
「だったら、こいつを貸してやる。」
 その意図はどうあれ、ホレスがルビスが祀られていた聖地を目的地としていることを確信して、用心棒――デビッドは一つの品を手渡していた。
「そいつはあんた達の宝、だったな。」
 彼が差しだすその品は、かつて闇の手の者との遭遇で窮地に追いやられた際に託されんとしたものだった。
「ただの笛じゃない?」
「当たり前よ。これはあたし達がこのマイラで見つけた宝物なんだから。」
「ここで見つけたの?」
「ええ。厳密には精霊神様のお膝元と言われたあの聖地の近くでね。」
 その品――穴の空いた雫型に吹き口のついた笛から何かを感じ取ったのか、ムーが不思議そうに眺めるのを見て、デビッドの恋人――メラニィはその出自を語っていた。その由来故に精霊神ルビスに縁あると思ったからこそ、彼らがこの品を一番の宝として大切にしてきたのだろう。
「ほほう、これは目覚めと眠りを司る精霊神の神器――妖精の笛ですねぇ。」
「流石は伝説の吟遊詩人、よく知ってるなぁ。まぁ、紛い物かもしれねえけどよ。一応気休め程度に持っていけよ。」
 その品をじっくりと見定めた上で、ガライはそれが持ちうる可能性の一つを示唆していた。所有者であるデビッド達もまた、或いは本物であればそれであると思っていたことだった。
 鑑定家などでなくとも、名のある吟遊詩人をして認められたとあれば素直に嬉しい限りだった。
――目覚めと眠り、か。
 デビッドから受け取った笛――それが妖精の笛であるとすれば、その所以が新たな道を切り開くものと成りえるだろうか。大魔王ゾーマによって封印されたルビスを目覚めさせることが出来た先に待ちうけるものも知れず、ホレスは何も言わずに嘆息していた。



 光一つ差さぬ空の下に、雷音と業火の猛りが幾度も響き合う。それらが撒き散らす力によってあらゆるものが灰燼と帰す匂いに引かれてきたのか、暗闇を彷徨える魔物達も次々と集まってくる。そして、光を纏った男と闇に包まれた五頭の巨竜へと次々と牙を剥き始めた。
 だが、その殆どはまともに近づくことすらままならず、男の呼び寄せた雷に打ち砕かれるか、竜の吐き出す炎の嵐に巻かれて瞬く間に燃え尽きていく。そしてそれらを掻い潜り、激突する両者の間に割って入った者もまた、黄金の大剣によって真っ二つに切り裂かれたり、肥大した巨竜に踏み砕かれるという無惨な末路を辿ることとなった。

『愚か者どもめが。』

 相対する者共々発している異質な重圧によって気が触れたのか、蠢く者共が次々とこの場に集っていく。その魔物達を文字通り歯牙にかけずに息の根を止め続けながら、五頭竜の王――キングヒドラは語気を落としてそう吐き棄てていた
「同感だな。」
 辺りを覆う闇そのものと一体となったかの如く強大な力を振るうキングヒドラ。それとと同じように、サイアスもまた、身に纏う雷光の如き光の如く襲撃者の比にならぬ次元に身を置いている。
「が、部下の躾はどうなってんだ?魔王サマよ、ああん?」
『滅びゆく世界の内で狂える者達の末路など、我らの知る所ではない。』
「そうかい。だったらこいつらが勝手に横槍を入れてきやがったってだけの話かよ。」
 邪魔立てする愚か者達を共に薙ぎ払いながらも、両者は油断なく互いに注意を向けつつ対峙していた。
「ちょいと地獄を見てきただけで俺様を相手にしようとか考える時点であほだな、こいつら。」
『言ったはずだ。貴様こそ、その程度の力を得て増長しているようでは同じことだ。』
「けっ、んなことばっか言いやがって、後で吠え面かくんじゃねえぞ。」
 光を失ったことにより、魔物達もその恵みを享受できなくなり、苦しい生を強いられてきた。だが、その中で飢えて苦しみ抜いただけでは、決定的な力の差を埋めようはない。
『貴様は何も分かっていない。結局貴様は悲劇を繰り返すだけの存在でしかない。』
「分かってねえのはてめぇの方だ。自分から邪魔してるくせして出しゃばってんじゃねぇぞ、コラ。」
 そんな事実に嘲笑うサイアスを見て更に苛立ちを募らせたのか、キングヒドラが侮蔑の眼差しを差し向ける。だが、サイアスもまた、大魔王の下僕と成り下がりながらのうのうと偽善を言い立てるキングヒドラに心底の嫌悪感を感じていた。
「悪は大人しく滅びとけ……」
 如何なる御託を並べようとも、所詮悪は悪でしかない。そんな相手との舌戦に付き合うのは飽きたとでも言わんばかりに、サイアスは黄金の大剣――稲妻の剣を大きく担ぎ上げる。その闘志に呼応してか雷の如き輝きが、刀身を覆い始める。
「それが勇者たるこの俺様の意思だぁ!!!」
 そして、それはサイアスの裂帛の気合と共に渾身の力を以って振り下ろされた。その瞬間、剣に集まっていた力が剣の軌跡に沿って解き放たれ、黄金色の波濤となってキングヒドラ目掛けて殺到する。
 打ち砕かれた地面の隆起や魔物に突き当たるごとに落雷の如き轟きと共に爆ぜて、立ちはだかる者全てを吹き飛ばしていく。

『ふん、光の手の者は皆そうほざくか!!!』

 自らを省みるより先に気に入らぬものを叩き潰す、その答えの体現と言わんばかりに力を振るうサイアスに向けてキングヒドラは憤りを込めた叫びを上げる。そして自らもまた五つの竜頭より一斉に業火を吐き出す。
 サイアスの放った雷光の力とキングヒドラの竜の業火が正面からぶつかり合い、雷鳴と爆音が辺りに轟いた。