プロローグ


 大地の底より吹き上がり続ける星の命に灼かれ続けて、紅く彩られた岩窟の果てにある渦巻く炎。



「熱い……」



 その内に足を踏み入れたとき、真っ先にその様に感じられた。護られている中で尚も牙を剥く炎がこの身を焦がし、その度に鋭い痛みが走る。



「この先に…何が……」



 誘われるままに足を踏み入れた灼熱の秘境。それは、人間達にとって大きな因縁を有する場……英雄が命果てたと伝えられる煉獄の深淵。その呵責の前においては、人など骸も残さずにこの星の中に還る事となるであろう。



「……確かに…続いている………」



 しかし、その渦の先に確かに、人の存在を許さぬこの禁断の地獄とは違う何かが感じられる。



ピシ……ッ!!



「……っ!!」



 だが、そうして道を見い出そうとしようとする最中、体を覆う守護が、この場の力に耐えられずに亀裂を走らせながら壊れ始めた。



ガシャアアアアアアアアアンッ!!!



 硝子が砕け散る様な音と共に光の破片が飛び散ると同時に、遮断されていた熱気が一斉に押し寄せる。



「…ぁあああああああああああああああっ!!!」



 この世にある如何なる罰をも凌ぐ煉獄の炎に包まれて、その喉から最期の時を告げるが如き断末魔の悲鳴が上げられた。



―…闇……



 そして、この身を司る全てが灰燼と帰そうとする中で失われゆく視界が映したものは、身を包む炎の中に微かに見える何よりも深い”闇”そのものであった。





 それと時を同じくして……


「……何が、起こっているんだろうな。」


 薪となる枝を集めて焚かれた炎が辺りを照らす中で、上を見上げながら彼はそう呟いていた。


「或いは俺が…おかしくなったとでも…?」


 これまで感じてきた取るに足らぬ理。それをこの地では感じられない。


「俺も…とんだ所に迷い込んだものだな。」


 一度眠りに就いたそのときも、辺りは夜の闇に覆われていた。だが、目覚めたそのときも、一向にそれが取り払われる気配はなく、未だに空は闇のみを映すのみだった。



グォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!


「まさに、常夜の大地…とでも言ったところか。」



 近くに聞こえる獰猛なる獣の咆哮と共に素早く身を翻しながら、彼は腰に取り付けられた一つの小さな銀色の環を取って勢い良く引っ張った。その表情は、未知なる異世界の内でも全く臆する事のない、真の冒険者だけが持ちうる何よりも尊いものだった。




 このときこそが、三つの運命が再び交わらんとする一つの始まりだった。