第二十四章 地上の終焉


〜魔王バラモスの城 玉座の間〜

 黄土色の鱗に覆われた、巨大にして醜悪なる魔物。その偉容は、魔物の王とありながらその魔物という範疇すらも超える、まさに人を脅かす災いそのものともいえる圧倒的なものだった。

「「奔流を収めし器は牙の型を取り、其は此処に宿らん」」

 そうした恐怖を振りまく魔王の前に、鋼とは思えぬ鋭く危うい刃の光を発する短剣を手にした赤い髪の少女が二重に響きながら何度も木霊する。
 
「「マヒャド」」

 自らの声が周囲へと飛び交う中、メドラはアサシンダガーを放り投げながら呪文を唱えていた。投げ上げられた短剣は弾ける様にして四本に分裂し、それぞれがマヒャドの呪文が巻き起こした極寒の凍気を纏いながら、バラモスへと飛んでいく。

『ぬぅううううんっ!!!』

 四方から同時に迫る氷の巨剣を薙ぎ払う事は、魔王であるバラモスにさえ敵わなかった。だが、彼は固めたその身を以ってして、それら全てを難なく受け止めていた。

「「メラミ、メラミ、メラミ」」
―メラミ、メラミ、メラミ

『…!!』

 だが、同時にメドラは、響き渡る力ある言葉全てに魔力を込めて、その力を現世へと引き出していた。


ドドドドドドドドドドドドドッ!!


『ぬぉおおおおおおおおおっ!!!』
 跳ね返り続ける呪文の山彦の全てがそれぞれ大きな火球と化し、バラモスへと殺到し、着弾と同時に爆ぜて、その表皮を穿つ。小さな攻撃が寄り集ってもたらされる更なる衝撃に驚きを隠せず、バラモスは叫びを上げていた。

「「……叩き、潰す…」」

 完全に無防備な姿を晒しているバラモスを見て、メドラは目を細めながらそう呟き、理力の杖を正面へとかざした。その体から立ち昇る魔力のオーラが、燃え上がる炎の如く赤く彩られ、嵐の如く大気を揺るがす。
 

「「イオナズン」」
―イオナズン
―イオナズン


『…うぬぅううっ!!!』
 今もまた、唱えられた呪文が幾度となく跳ね返り、やがて…

ドガァアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!

 強烈な光がバラモスを覆い尽くすと同時に、四つの爆発が一つに融け合い、かつてない力の暴走を巻き起こしていた。
「…………っ!!」
 その一方で…暴れ狂う光と暴風は、術者であるメドラ自身をも襲い、その圧倒的な力の内で容赦なく弄んでいた。

『…ふ…ハッハッハ……素晴らしい…。人がよもや…魔の力においてここまで我が力を超えようとは…』

 だが、自らを省みぬ程の凄絶なまでの爆発の内にあって尚も、バラモスは未だに健在だった。
「……。」
―…まだ…、足りない。
 それに驚いた様子も見せず、メドラは黙って彼を睨み付けた。四つの最上級呪文を同時に受け、パルプンテの力に巻かれて、バラモスは確かにその傷を深めている。

「こんな…ものじゃ…」

 しかし、ただ一度の捨て身の一撃程度では魔王は全然堪えていない。倒すに至るには、まだ力が足りない。メドラは爆発に打たれて傷を負いながらも、ゆっくりと立ち上がっていた。
「…もう、私だけじゃない…。」
 ただ一人で魔王と戦う事によって満身創意の彼女を立ち上がらせていたのは、無二の友への想いだった。
―終わらせる。あなた達のためにも…。そのためなら…
 魔王という存在に望まぬ道を歩まされてその重苦に押し潰された果てに闇に身を投じたレフィル、そして…友という絆の下に如何なる苦難をも乗り越えようとしてその身を滅ぼさんとした、”彼女”が愛する者―ホレス。
 
「……何があっても…あなたの好きにはさせない。」

 彼らを救うためならば、もうこの身など惜しくはない。そう小さく呟くメドラの顔に宿る決意は、咎人という宿命にありながらもどこまでも気高く、どこまでも悲しいものだった。

ドクンッ…!!

「………っ…!!」
 同時に、彼女の中で突然に高鳴りが起こり始めた。
―…体が…熱い……
 決意を引き金とするかの様にして起こった不可解な鼓動は段々激しくなっていく。しかし、それは滅びを知らせる訃音などではなく、巡る血潮が心身の昂ぶりを訴えかけてくる事が分かる。


ドクンッ…!!ドクンッ…!!


「ぁ…あああああああああああっ!!!」


 自らがその身に纏う炎そのものとなったかの様な、溢れ続ける力を感じ、メドラは天に向けて大声で叫んでいた。


ドクンッ…!!!


 小さな体の中でのた打ち回る心臓の鼓動が、頂点に達したそのとき…


ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!


 メドラの体は光となって爆ぜて、同時に竜の上げる咆哮が天地を揺るがした。
『…ほぅ、ここに来て……ついに…』
 いつしか目の前に現れた存在を見て、バラモスは楽しそうに言葉を零していた。


『かつて人の子によって取り込まれし、哀れなる竜の魂よ』
『………。』


 光が結晶と化した様な淡く煌く金色の鱗。本当の力を現したバラモスに匹敵する程の巨大な体躯でありながらも、それと相対する聖なる雰囲気を纏った竜は、その翠玉の如き緑の瞳を向けながら、静かに佇んでいた。

『なればそなたごと…かの力を手に入れて見せよう!!』

 求めていた力を有する少女は、その身を棄て去った事で喚起された内なる魂の目覚めによって、神の化身となった。それを打ち倒したそのときこそ、目的は達成される。
 
グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

『さぁ、来るがよい!!』

 大地が燃え盛り続ける中、聖なる竜と魔の獣は、本能が赴くままに組み付き、互いを喰らい合い始めた。その戦いは、余人が割ってはいる余地など全くない次元にあるものだった。



〜魔王バラモスの城 瓦礫の山〜

 巨悪を討つために人々から希望ともてはやされる勇者の、魔城への来訪。そして、勇者と魔王を取り巻く$数多の想い。それらが呼び寄せた力が、この場を完膚なきまでに破壊しつくし、今ではその亡骸たる瓦礫の山を残すのみとなった。

「…ぐ…は…っ…!!くそ…っ!!」

 その中から、上に覆い被さる石の破片を力任せにどけながら立ち上がる一つの影があった。
「次から次へと…何が起こってやがる…!!」
 突如として巻き起こった数々の災い。誰もかもを滅ぼさんとした漆黒の稲妻に、天より墜ちて大地を打ち砕いた無数の流星。
「こんなんなるんだったら…ハナから一人で突っ走るんじゃなかったぜ…。」
 立ち塞がる魔王の僕達の守りを突破し、魔城の中へと突入するまではよかった。だが、そこで襲い来たそれらの脅威に遭遇する事になった。真紅の鎧を纏った戦士―マリウスは、後悔した様子でそう呟いていた。

「みんなは…無事だろうな…?」

 周囲には、先程まで自分と交戦していた者達の亡骸や、その死灰が見える。自分とて、呪いの武具が無ければ、その内の一つに成り下がっていたかもしれない。そして何より、魔城の外で戦っているであろう仲間達が同じ目に遭っていないとも限らない。
「まぁ…信じるっきゃないか。」
 心配していないと言えば嘘になるが、敵地の中心にいる彼にはそれを顧みる余裕さえなかった。

「それよりも……」

 遠くに聞こえた竜の咆哮、それはマリウスの耳にも確かに届いていた。

「まだ戦ってんだな…!!よし、待ってろよ…!!」

 不安定ながら、記憶を失って尚も残るメドラの力が幸いして、あの魔王相手に持ちこたえているのが分かる。ホレスも、そう簡単にやられてしまう事もない。今も尚戦っているであろう三人の姿を思い浮かべつつ、マリウスは先へと急いだ。

「陛下の邪魔はさせんっ!!」
『…こんなところに人間が!!』

 その行く手に、数人の兵士と魔物が立ちはだかる。
「少しは…やるみてぇだな。」
 地獄の中にも似た、あの状況の中で活路を見い出しただけの事はあるらしく、これまで戦った相手と比べても、格の違いが感じ取れた。

「…が、てめぇらなんざに用はねぇんだよ!!」

 しかし、それでもマリウスは全く臆する事なく破壊の剣を振り上げながら、眼前の敵へと猛進した。

「…が…はっ!!」
『…ガァアアアアッ…!!』

 振るわれた邪剣は、兵士の纏う鎧や魔獣の外皮を容易く切り裂き、その骨にまで刀身を届かせていた。
「死にたくねぇヤツぁ…どきやがれっ!!」
 敵に向かってそう叫びながら、マリウスは行く道に立つ者達を次々に蹴散らしつつ、見事なまでの強行突破をしてのけた。

「…逃がすな…っ!!ぐ…っ!!」

 斬られた兵士達の内の一人が立ち上がるも、すぐに激痛に顔を歪め、傷口を押さえながら地面へと崩れた。

『ベホマ』

 そのとき、いつの間にか後ろに現れた、緑の外套を纏った青年の回復呪文の声と共に、癒しの力が彼の内へと流れ込んでいた。

「助かった…。すまん、ユニア。」
『ええ。ですが、それよりも大変です。先程の雷と隕石によって、城の守りが崩されております。』
「…なんだと…!?」

 傷を治したエビルマージ―ユニアから聞かされた言葉に、近くの兵士達の間にも戦慄が走る。今も、侵入者を一人逃したばかりである。
『特に手薄な西側から、敵が大挙してこちらに向かっております。あの者を追うよりも、そちらの守りが先決かと…』
「わかった…!!すぐに…!!」
 大いなる力によって魔城全体に損害が出ている今、こうなる事は彼らとて予測はできていた。だが、魔王の腹心たる緑衣の魔術師の知らせを受けた以上は動かないわけにはいかない。兵士達は二手に分かれて、その片方はユニアの言葉に従ってすぐに守りの増援に向かった。

『…全く、近頃は不確定要素ばかりよく起こるものだ。』

 下界の人間が、この魔境の中心に足を踏み入れたばかりか、魔王の居城の破壊さえもしてのけた。その様なありえない現実を前に、ユニアは自然と冷静にそう呟いていた。



〜魔境ネクロゴンド テドン上空〜


「見えてきた…!!あれが…!!」

 二人をその背に乗せたラーミアは、最果てにある銀嶺の大地を飛びたち、海を越えて、深緑に覆われた大陸の上空へと差し掛かった。

「…ネクロ…ゴンド……」

 険しい山岳と、湖に囲まれた巨大な浮き島の頂上に、土煙が上がっている。長い様で短いほんの少し前に、レフィルはホレスとムーと共に、あの場所で魔王バラモスと戦っていた。
 
「今は…どうなっている…?」

 だが、その結果は非情なものだった。人と魔王との力の差を埋める事などできず、三人はそれを前に敗れた。

「もうすぐ…か。」

 ムーとホレスが傷つけられて激昂したレフィルは、単身で魔王バラモスへと挑んだ。力及ばず、幾度と無く斬り裂かれたその果てに生命力を使い果たし、彼女もまた、バラモスの手にかかろうとした。 

「そう…ね。」

 しかし、その結果を良しとしなかった二人の仲間は、意図せずもレフィルへと闇への道を開いてしまった。その力を手にした事で、”心の闇”を露わにした彼女は人ではなくなり、その怨恨に…狂喜に任せて、バラモスを追い詰めた。だが…ただ一撃の反撃がレフィルへと致命傷を与えてしまった事で、彼女は自分を追い詰めた者達全てへと復讐を願った。
 
「………。」
 
 それが更なる悲劇を呼ぶ事となる。”闇”が赴くままに放たれたギガデインは、二人の仲間をも襲っていた。それを目にしたレフィルの心に焼き付いた深い悔恨は、今も尚消える事無く残っていた。

「ムー……。」

 そして、彼女は絶望の内で自らの命を絶とうとし、自ら招いた雷に撃たれて倒れた。だが、ムーはそんなレフィルを救うために、共にいたホレス諸共、呼び出した旅の扉へと送り、自らは魔王バラモスとただ一人で戦う事を選んだ。その選択によって、二人は結果的に救われていた。
 
―いや…メドラ、か…。

 旅の扉へと吸い込まれる直前、ホレスは確かにムーの変化を感じ取っていた。行使できる力の大きさも普段のそれと違う。だが、それ以上にその他の小さな変化から、心の違いとも呼べる何かを知った気がした。
「…そうか、お前も…」
 何を思ったかは知らないが、”彼女”は自分達を、ムーを救うために再び目覚めた。だが、彼女自身が失われる結果となってしまったら、それこそ更なる悲しみに包まれてしまう。まして、その力を奪われようものならば、世界は滅んでしまう。

「お願い、ムー…。無事でいて…」
「待っていろよ…!」

 もはや勇者たる宿命も、世界を背負う役割も、何もかも関係ない。意図せずも世界を左右する運命の内に囚われたムーを救い出す。その事だけが、今の二人の全てだった。そうして想いを確かめ合う彼らを乗せて、ラーミアは虹の如き光を放ちながら、大空を駆け抜けていた。



〜魔王バラモスの城 玉座の間跡〜

ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 徐々に崩れ逝き、壊れ始めた城の離宮の方から、悲痛な竜の絶叫が響き渡る。


「…っ!!メドラ!!」

 それを聞きつけ、マリウスはすぐさまその方向へ向けて走っていた。

「邪魔だぁっ!!どけぇえっ!!」
 
 積み重なる瓦礫を乗り越えて、立ち塞がる輩を斬り捨てたその先に待っていたのは…


『獲った……!!』


「!!!!」
 黄土色の鱗に覆われた巨大な獣が、光に包まれた金色の竜を押さえつけながら、聞き覚えのある声で歓びを表している様子だった。

『ついに…こやつは我が手の内に…!!ようやく訪れた…!!このときが…!!』

 獣は尚も、歓喜に入り浸る様に感慨深く空を仰いでいる。その手の内に落ちた竜は、人形の様に力なく佇んでいるだけだった。


「……ッ!!!バラモォオオオオオオスッ!!!」


 それを目にした次の瞬間には、マリウスは破壊の剣を手に、獣へ向けて踊りかかっていた。

『ふん』
「…っ!!…ぐあ…はっ…!!」

 だが、バラモスがその腕を一回軽く振るっただけで、彼は埃の如く容易く宙を舞っていた。体に受けた衝撃の強さのあまり、受身を取る余裕さえない。地面に叩きつけられて、その内にある空気を、絞り出されるかの様に吐き出されていた。

『よくぞ、人の身でここまで辿り着いたものよ。』

 その押し潰す様な一撃を耐えしのぎ、よろめきながらも立ち上がろうとする中、また聞き覚えのある声が、獣の口から発せられる。
「…てめぇ…!!やっぱりバラモスか…!!」
 それは、世界樹近傍の樹海で会いまみえた、簒奪者たる王の声色で間違いなかった。

『だが、少しばかり遅かった様だな。既にかの力を持つこやつは我が手にある。あとは…』
「ふざけんじゃねぇ…っ!!こちとらこいつらの護衛をやってたんだ…そうはさせるかってんだ!!」

 魔王の狙いがどこにあるのかは知らないが、メドラが傷つき、捕まっているのは間違いない。彼女を守るべく、マリウスは体勢を立て直しつつ、武具を構えた。

『ハッハッハッハ、何も知らずして突き進んできたと言うのか。』
「…っ!?…何がおかしい!?」

 だが、その様な彼を見て、バラモスが返した返答は単なる笑殺でしかなかった。
『何がおかしい?滑稽な事この上ないであろうが。既にかの娘も、その仲間たるうつけもここにはおらぬわ。』
「…なん…だとっ!?」
 メドラはバラモスの手に堕ち、レフィルとホレスの姿もこの場にはいない。それは、マリウスの目的が崩れ去ろうとしている事を示していた。

『ワシを追い込んだその力を以って、彼奴は自らを滅ぼしおったわ。貴様らが希望と崇めてきた者が、この様な末路を辿ったのだ。それこそ、虚構の理を信ずる人間の蒙昧が招いた哀れなる希望の替え玉そのものではないか、ハッハッハッハ。』
「て…めぇっ!!」

 バラモスが言っていた事が、レフィルが落ちた運命であるとすぐに理解できた。あの黒い雷を呼び寄せ、皆を傷つけて、最後には彼女自身も滅ぼした。”勇者”と呼ばれる者が、禁忌―裏切りへと触れた事を告げられ、マリウスの中に行き場の無い怒りがこみ上げてくる。
『そうだ、そなたとて感じておろう。いかに今の人間どもの世界が愚かなものであるかをな。』
 その正体は、脅威一つを除くために、一人の少女を犠牲に捧げた、人の世の理不尽な様だった。

「…んな事知るか!!メドラを放せ!!さもないと…ぶった斬るぞっ!!」

 しかし、すぐにそこで起こる感情を払拭し、マリウスは剣を突き出しながらそう叫んだ。

『それも、親しき者達が共にする絆が成せるものか…』
「…あぁ…っ!?」
 ふと、そのときバラモスは、その様な彼の姿を見下ろして、そう呟いていた。その姿には、関心に動かされた様子がいささか見受けられる。

『だが、今はその様なものを相手にするつもりはない。』

 しかし、最後にそう言い捨てると、バラモスは捕らえた竜共々、虚空の内へと消え去っていた。

「……っ!!待ちやがれ!!」

 この場から突如としていなくなろうとする魔王を前に、彼は成す術もなくそう怒鳴るしか無かった。



「魔王は…どこだ…?」

 その頃、崩れた魔城の中の一角に、静かな怒りを孕んだ声が小さく零れていた。

「貴様は…!!」
「小僧…!!」

 それを発したのは、若くして勇者の宿命を背負う事となったが故に、軋り続けていた者達の一人―アギスであった。先の黒雷や隕石に巻き込まれたのか、防具も衣服も土に塗れ、かなり損壊していた。
 
「邪魔な…奴らだな…!!」
「「……ッ!?」」

 だが、その傷とは裏腹に、彼の纏う気迫は、更に大きなものとなっていた。そしてそれが行く手を阻む者達への殺気と変わったとき、アギスの背より現れた鋼の一閃が正面を薙ぎ、一人の命を奪い去っていた。

「消し飛べ…!!」

 次いでかざされた左手から、一筋の金の稲妻が雷鳴と共に迸る。明確な殺意と共に集約された雷の力は、兵士の体を一瞬にして黒い灰へと帰していた。

「ザコに用はない。…俺から全てを奪ったのは…!!」

 既に滅びた故郷、旅先で訪れた数多くの町や秘境。”勇者”であり続けるがためにそれらへと向かう度に、彼の周りの仲間は次々と死んでいき、最後には一人ぼっちとなってしまった。それを代償に、自らの手で掴んだ力を振るいながら、アギスは全てを狂わせた仇とも言える存在を近くにして感じる激情を、震える声で吐き出していた。