魔境 第三話


〜ネクロゴンド 深遠の樹海〜


 深き森、それを構成する木々が擁する幾千、幾億もの葉が、光差す間もない程に生い茂る。木々の懐に差す陰は辺りを闇に包み込む。まさに、魔境にある森と云うに相応しい光景であった。

「おおしっ!!こっちも切り倒すぞ!!」
「あいよぉっ!!」

 その中で、数人の男達が呼びかけ合うのを合図に、一本の木が切り倒される。それが地面へとぶつかるとともに、大地を揺るがすような轟きが鳴り響いた。
「よぉし!!もう少しでこっちから通れるぞ!!」
「おぅっ!!山道も近いぜ!!」
 斧やのこぎりなどの工具を携えた開拓者達が道を切り拓いていく。彼らが通る先は全て、見事なまでに整えられた道となり、深き森の中において明確な行くべき標となっていた。

グガァアアアアアッ!!!
ウォオオオオオオオッ!!!

 彼らが作業に専念している最中、突如として身の毛もよだつ程の大きく、不気味な雄叫びがその間に響き渡った。
「ま…魔物だっ!!!」
 すぐに振り返り、襲撃に備えようとするも…
「ダメだ!!間にあわねえ!!」
 六本足をもつ獅子の魔獣―ライオンへッドの爪牙はすぐそこまで迫っていた。
「はぃやあああああああっ!!!」
 しかしその時、気合が込められた少女の叫びが、どこからか聞こえてきた。

ドゴォッ!!!

 その瞬間、魔物は背後から飛んできた巨大な鉄球に打ち据えられて、前方へと大きく吹き飛ばされた。その鎖の先には、二つ結びの黒髪をもつ、武道着を纏った小柄な少女の姿があった。
「そこね!ジナッ!!」
 彼女はすぐに上を仰ぎ、呼びかける様にしてそう叫んだ。
「たぁああああああっ!!」

バシンッ!!!

 すると、上空からこの武闘家と同年齢くらいの少女が掛け声と共に森の上から飛び降り、手にした巨大な錫杖を魔物へと叩きつけた。直後、ライオンヘッドはそれらの猛攻にたまらず、尻尾を巻いて逃げ出し、森の奥へと姿を消した。
「大丈夫!?みんなっ!!」
 桃色の髪を一つ結びにして後ろに垂らした少女は、算盤の様な先端がついた錫杖で魔物を撃退するなり、開拓者達に向かってそう叫んだ。
「おぅ!!助かったぜ、ジナちゃん!!」
 その小柄で華奢な印象とは正反対に、巨大な武器を振り回して圧倒的な力を見せ付けた二人の少女に、喝采が浴びせられた。
「あいやー…森の中で鉄球じゃあやっぱり戦い難いある…。ワタシもまだまだ修行が足りないね。」
「まぁ、結果オーライでしょ?怪我人も出ずに済んだんだから。」
 破壊の鉄球を振るう武人の少女サイ、正義の名を冠する算盤を携える行商人の少女ジナ。彼女達もまた、このネクロゴンドの地へと赴いていた。
「全くだぜ。…やっぱダーマにいただけあって違うな。」
「ダーマ…か…。」
 自分の戦い振りがよっぽど見事だったのだろうか。感心した様な男の言葉に、ジナは表情を曇らせた。
―…これが終わったら…今度こそ…。
 ダーマ…ジナにとって、自分を育んだ聖地であると同時に、兄を殺した憎き仇である咎人を生み出した悪夢の舞台でもある。
―いつか…絶対仇を取ってやるんだから…!!
 大切な家族を奪った”蛇竜の魔女”メドラ。その存在がある限り、ジナの内から憎しみが消える事はない。それがダーマで育まれたという自分の立場を思い出す事を憚らせていた。

「バギ…クロォオオオスッ!!!」

どぎゅるぉおおおおおおおっ!!!
ドタドタドタンッ!!バキッ!!ミシミシミシミシ…ッ!!

「…!?な…なんだぁぁっ!!?」
 叫ぶ様にして唱えられた呪文と共に発生した、凄まじいばかりの物音を立て続けに起こし続ける大竜巻を見て、開拓者達は思わず素っ頓狂な声を上げていた。
「お…オードさんっ!?来てたの…!?」
「あいやー…相変わらず滅茶苦茶な強さあるね。」
 バギクロスを唱えた張本人…人一倍熱心な宣教師―オードの姿を見て、サイとジナもまた、その存在がここにある事に驚いていた。程なくして、トロルの大群が大空から次々と落ちてきて、地面に叩きつけられていた。

「正しき行いを害する者達よっ!!このオードが天にまします神々に代わり、相手をしてあげましょう!!さぁ、悔い改めなさい!!それとも再び裁きを受けようというのですかっ!!?」

 暴風によって薙ぎ倒された木々の真ん中で、オードは倒れ伏す魔物達に向かってそう告げていた。その光景はまさに、裁きを下す怒れる鬼神と、許しを乞う罪人達のそれであった。

「…俺ら…初めから出番なかったんじゃねえか…。」

 オードが唱えたバギクロスの呪文の大竜巻によって、辺りの木々はすっかり刈り取られ、既に切り拓くべき場所は殆ど残されていなかった。開拓者達はそれを前にして、その信じがたい様な現実にただただがっくりとうなだれるしかなかった。


「…ふん、やはり満たされぬな。」
 巨大な魔物の骸が横たわっているそばで、それを一瞥しながら彼はただそう呟きつつ踵を返していた。
「へぇえ、これでも真面目にやっていないんだ。」
 そばに控えていた女は、その緑の武道着を身に纏った逞しい体つきの男に対して、意外そうに首を傾げていた。
「それは貴様も同じ事だろう。」
 しかし、彼もまた…そこにいる辺鄙な格好をした女へとそう斬り返した。
―…奇怪な趣味だな…。
 ウサギの耳を象ったヘアバンドに、青のレオタード…それはどう見ても、魔王を討たんとする一行に不相応なものであった。

「ジンの旦那!!ミミーの姐御!!お陰で助かりやした!!」

 彼らもまた、魔物を倒した事により、道を切り拓く者達を守った事で周りの者達からの歓声を浴びせられていた。
「礼などいらん。それより作業を再開しろ。」
「あら、お堅いのね。」
 その様な雰囲気の中で、素っ気無い返答を返したジンを見て、ミミーは面白いものを見たような笑みを浮かべていた。
「いつもの事だ。貴様こそ、賢者を目指す者としては緊張に欠けると見受けるが。」
「あら?現十代目賢者さんをご存じないの?彼なんかもっと凄いわよ?丁度リーダーの近くにいると思うから見に行ったら?」
「ほぉ?それは是非とも見てみたいものだな。」
 修練の場として名高いダーマの神殿の顔ともいえる賢者は厳粛なものであるというイメージが根強く広まり、ジンもまたそうしたものだと思っていた。だからこそ、その常識を覆す様な現実に、興味を抱き、その巌の如き顔を愉悦に歪ませていた。


「終わったぜ。」

 紅く彩られた不気味な意匠の防具で身を固め、刀身に無数の髑髏が浮き出た禍々しい雰囲気を漂わせる剣を手にした戦士は、駆けつけてきた者達へとそう告げていた。そばには彼が築き上げた屍の山が幾つも建ち並んでいる。
「おいおいおいっ!?なんだぁっ!?あんたそんな強かったのかよ!?」
 この場には、彼の他にネクロゴンドの魔物とやり合える程の腕前の戦士はいなかった。つまり、たった一人で大量の魔物を相手にして、しかもその全てを倒していると言う事だ。
「…まぁな。ま、俺だけの力じゃあねぇんだけどよ。」
 驚いている面々にそう返しながら、マリウスは身に纏った三つの呪物を眺めた。
―全く…最近コイツらに随分と世話になる機会が増えやがったな。
 攻撃の衝撃を相手に跳ね返す”嘆きの盾”、その有機的な外見と裏腹に鋭く重厚な刃を持つ”破壊の剣”、そして…この身を覆い、堅固な守りの力を与える”地獄の鎧”。忌むべき呪いと引き換えに、それらはマリウスへと絶対の戦力を約束していた。
―さぁて、今度はどうなる事かね。
 一度バラモスへと戦いを挑んだ時は、”王者”と銘打たれたあの剣によって、呆気なく敗れる結果に終わっていた。しかし、今度は状況が違う。
―…カンダタのオッサンやハンの旦那が作った街の皆が付いてるんだ。悪い様にはならねぇだろ。
 サマンオサを牛耳っていたバラモスの手先、ザガンによって町を壊される事が二度もあってはならない。その志のもとに集まった仲間達の結束は、他の面白半分で乗り込んできた者達の比ではない。
―よぉし…待ってろよ、レフィルちゃん。
 そして、おそらくあの少女…レフィルもまた、ネクロゴンドへと足を踏み入れた頃だろう。しかし、それよりも先に魔王バラモスへと至り、討ち取る事ができれば、彼女を危険にさらす事はない。そして、自分達にはきっとそれができる。

「マリウスさん!!岩山の山道まで道、繋がりました!!」

 そうして物思いに耽っていると、誰かがその様に報告するのが耳に入ってきた。
「おおし!!皆ぁ、進めぇ!!」
 すぐさまそれに応えると、皆が上げる歓声が響き渡り、一行は切り拓かれた道を進み始めた。
「さて…そこまで着いたら一休み…だな。」
―…オッサンの代わりも楽じゃねぇぜ。
 伊達に盗賊団の面倒見ていないということか。マリウスはこれだけ多くの開拓者を纏め上げている程のカリスマ性を持つあの漢の偉大さを改めて思い知った。



〜ネクロゴンド 平原〜

「命に別状はない。だが、今はこれ以上戦うのは無理だろうな。」
「そうか……。」

 横たえられた二人の負傷者へと手当てを施しながらのホレスの言葉に、戦士は複雑な面持ちを露わにした。
「すまねぇな…。もうダメかと思った所で…助かったぜ。」
「ああ。…だが、あんたら程の冒険者でも…」
「そうだな…。これでもちぃとばかり自身あったんだけどな…。」
 ここまで、この戦士が率いる一行は、ネクロゴンドの魔物相手にも特に問題なく進んでいた。
―…油断はできない…という事か。
 彼らの腕は確かであった。しかし…一瞬の隙が勝敗を決したのは事実であった。ホレス達がたまたまこの場に居合わせなければ、彼らの命は確実に尽きていただろう。
「しかし…連れの嬢ちゃん…大したモンだよな…。伊達にこんな鎧着てないとは思ったけど…まさか…”戦乙女”様だとはなぁ…。」
 ふと…戦士は、近くで傷ついた者達へと回復呪文を施している緑鎧の少女を、至極感心した様な面持ちで見つめていた。
「………。」
 国より授けられた最強の剣と、専用に作られた強固な鎧を身につけていたとはいえ、あの年頃の少女が三体の魔物をあれ程鮮やかに、しかも手早く屠った様は、あの場の全員の目に焼きついていた。
―……本当に…大丈夫なのか?
 その戦い振りは、以前と比較して明らかにレベルが上がったものであった。それを成長と受け止める事もできるが、彼女の曇りなき剣に込められた思いには、どこか悲痛に感じられるものがある様な気がして、ホレスは眉をひそめていた。

「…戻る先は、アッサラームでいい?」

 他所の冒険者達と話を交わしている最中、ムーがひょっこりと顔を覗かせながらそう尋ねてきた。
「…ああ、ホント…恩に着るぜ。」
「……落ち着いたら、おいしいもの、ちょうだい。」
「…ぉおい、…ちゃっかりしてやがるな。はは…」
 疲れ切った中での安息の内へと入った様子の男の苦笑を見届けた後、ムーは呪文の詠唱を始めた。
「よし。悪いがオレ達も先を急いでいる。今すぐ…でもいいな?」
「おう…頼んだぜ。あんたらの顔は覚えておくからな。…この恩は忘れねえ。」
 ホレス達は三人共、傷つき倒れた者達を捨て置く事ができる程非情にもなれなかったが、その情にばかり捉われて立ち止まっている訳にもいかない。

「バシルーラ」

 ムーの呪文が唱えられるとともに、四人の冒険者の体に光が帯び始める。
「じゃあな。あんたらの旅の無事を祈るぜ…」
 その言葉を最後に、彼らは魔境の平原から大空高く飛び立っていった。

「……さて…。」

 彼らがいなくなったのを機に、ホレスはゆっくりとその場から立ち上がった。
「…ふぅ…。」
 それに倣い、レフィルもその腰を持ち上げて、大地をしっかりと踏みしめた。
「行けるか?二人共。」
「問題ない。」
「大丈夫よ。」
「よし。…バラモスの城へは…この森を抜けるしかないな。」
 仲間二人が動ける事を確認すると、ホレスは地図へと目を向けながらそう呟いた。

―…レフィル……一体あれだけの力…どこから出てきた…?

 先程の戦いでレフィルが発揮した実力、それは単純にバスタードソードとドラゴンメイルが与えるものを大きく上回った、”彼女自身”の力であった。しかもそれは、これまででは考えられぬ程の強さである。
―…このまま何も起きなければ良いが…。
 時に人は想像もつかない程の力を発揮する事がある。だが、過ぎたる力は己が身を滅ぼす。レフィルもまたそうなってしまうのか…、彼にとってはまずそれが心配であった。
「さぁ、行くぞ。」
 かといって、このまま立ち止まっていても始まらない。結局何が最善であるのか分からぬままに、ホレスは先へと足を進めざるを得なかった。


〜ネクロゴンド 深遠の樹海〜


「この道は…」
「ハン達…か。」

 レフィル達は、ネクロゴンドにある深き森の前まで足を進めていた。そこで彼らは、綺麗に切り拓かれた一本道が森の奥へと続いているのを目にして、思わず立ち止まっていた。
「…一体、何のつもりだろうな。」
「ホレス…?」
 ここでホレスは、憮然とした面持ちで正面を眺めながら不満そうに呟きを零していた。
―…初めから、オレ達を連れて行く気はなかったという事か。
 少なくとも、アリアハン王との謁見が終わって、ルイーダの酒場に戻って来た時点で、自分達の協力者であったニージスやメリッサ、マリウスの姿は無かった。おそらくハン達と共に出発してしまったのだろう…と予測はついたが、こうして改めて現実を見ると、少し苛立ちをおぼえた。
―いっその事、あんた達に任せてしまいたいところだが…
 或いは彼らなら、バラモスを倒す事もできるかもしれない。それで事が済むのであれば、レフィルがこの場にいる意味はない。
―…この先どうなるか分からないからな…。
 仮にもレフィルは”アリアハンの勇者”である。世界は、彼女こそが”魔王バラモス”を倒す事を望んでいる。それが叶わねば、その歪みは一生つきまとう事だろう。

「ホレス、魔物の気配はする…?」

 そうした思考の渦に巻かれている最中、ふと、レフィルがそう尋ねてきた。
―そうだ、こいつだって…成長してるんだ…。
 心に暗い影が幾分差しながらも、レフィルは既に守られるだけの存在である程弱くはなかった。今の問いかけも、ホレスの力を見定める力がついたからこそできたものであろう。
「…ああ、とんでもない数だ…」
 ホレスの耳に、森に潜む幾十、幾百もの魔物の放つ物音が入ってくる…
―このままオレ達が通って、果たして無事でいられるものだろうか…
 それらが一斉に牙を剥いて来ようものならば、自分達だけでどこまで対処できるだろうか…

「そう…それでも…」
「前に進むしか…」
「…ない」

 しかし、この様な難関も、彼らの進む意志を揺るがすには至らなかった。通ってきた道は違えど、呪われた宿命を歩んで来た三人からすれば、これもまた、ただ一つの障害でしかなかった。

『お主ら…わしの事を忘れてはおらぬかえ…??』

 三人が森へと足を踏み入れようとしたその時、突如として背後から聞きなれた声がするのが聞こえてきた。
「…お…大蛇…!?」
 果たしてそこには、緑の鱗を持つ八つ首の巨獣がたたずんでいた。
『ここからは…我が力、存分に見せ付けてくれようぞ、ほほほ…』
「それは…心強い…」
『うむうむ!!任せておけぃ!!…さぁ、参ろうぞ!!』
 鋼鉄の刃をも通さぬ頑丈な外皮に、鋭い爪牙、そして…灼熱の息吹。ここまでの力を有する八岐の大蛇を頼もしい味方と呼ばずして、何と言うべきであろうか。


〜ネクロゴンド 森中の新道〜

『小賢しいわ。』

ゴォオオオオオオッ!!!

 八つの蛇頭より同時に吐き出された炎は、正面に群がる褐色の巨人の群れを、一瞬にして消し炭と化した。

『『『メラミ』』』

 直後…どこからか、火球の呪文を唱える声が聞こえると共に、三つの大きな火球が大蛇を襲った。だが…
『温いのぉ…。これでは些かな刺激にすらならぬではないか。』
『『『!!!』』』
 しかし、緑の鱗が炎を弾き飛ばし、大蛇は全く堪えた様子は無かった。それを見た…呪文の術者―ミニデーモン達は思わず立ちすくんだ。

ガッ!!バクンッ!!ゴクンッ!!

 その直後…大蛇の三つの頭が彼らへと伸び、その体をくわえ込んで一気に丸呑みにしてしまった。
「規格外の強さだな…」
 それはまさに、ジパングに伝わる八岐の大蛇の伝説の再現とも言えるものであった。この森に潜む蠢く者どもは、荒ぶる蛇神によって尽く滅されている。ある者はその牙に囚われて飲み込まれ、ある者はその爪で引き裂かれ、ある者はその体で押し潰され、そしてまたある者その炎に身を焼き払われていた。

『…む!一匹取りこぼしたか!!』

 ふと、八つの首から仕掛けられる攻撃をくぐりぬけ、一体のフロストギズモがこちらへと向かってくる。
「バイキルト」
 それに対して、大蛇の背中に乗っていたムーは、自らにバイキルトを施してすぐさま空高く飛び上がった。

ボフッ!!ブバッ!!バシュゥウウウッ!!

 そして、空中で繰り出された三連撃が魔物を打ち払い、打ち据え…そして跡形も無く消滅させた。

ズブッ!!

「「「…っ!?」」」
 その時、不意に八岐の大蛇の体が前方に傾き、レフィル達はその場から軽く投げ出された。
『ぬ…ぬぉおおおおっ!?し…沈むぅううっ!?』
 大蛇の前足が地面の一角で沈んでいる。どうやらぬかるんだ地表へと足を踏み入れてしまった様だ。

「デュフューズ・イース・ビヘンド・セロン……トラマナ!!」

 すぐさまホレスが呪文を唱える。すると、大蛇の前足の沈下が収まり、一歩踏み出すとその湿った大地の上を事も無しに歩く事が出来る様になった。
『た…助かったわ…』
 ホレスのトラマナの呪文のおかげで、どうにか危機を脱する事が出来た。大蛇は気の抜けた様子でそう呟いていた。
「そろそろ暗くなるな…。ここを抜けたら一旦休息を取ろうか。」
『うむ!それがよかろう!見張りはわしに任せておけぃ。夜目には自信があるのでな。』
「蛇だから?」
 呟かれたムーの一言に苦笑しながら、一行は大蛇に乗って先へと進み続けた。

 西に在る黄昏が、三人の前を静かに落ちていくのが見えた…。