何が為に 第二話
ガチャッ…
「…あ、ホレス。」
「お、ホレスや。戻ってきたかぁ。」
「ふふ…お帰りなさい。」
 宿屋のロビーに佇んでいたレフィル達は、ドアが開いた先に現れた…仮面を額の辺りに身に付けている黒装束の青年へと注目した。
「あら?お土産いっぱい持ってきたみたいねぇ。ふふ…」
「へぇえ…随分気が利くやん。」
「それで…調子はどぉ?」
 カリューともども、彼が背負った大きな包みに目を向けながら、メリッサが微笑みかけながら首尾を尋ねた。
「事情は大体分かった。不確かな情報が殆どだったが、まとめると大体つじつまが合う。」
 それに対してホレスは事務的な感情のこめられていない声で…しかし、満足した様子でそう返した。
「んー…そやかてそない言うてもお前、何処行ってたん?」
 宿の前で情報を集めに行く事になったといっても、彼一人で町の奥に去ってから具体的な行動は知る由も無い。カリューはそれが気になってホレスにそう訊いた。
「居酒屋や裏路地の情報屋…劇場とやらにも行ったか、人が随分と集まるからな。」
「劇場?ああ、あそこかぁ。アッサラームも真っ青なえらく立派なモンが建ってたなぁ…ってちょと待ったぁ!?」
「…?」
 自分のに対して暫く納得する様に頷いていた中で突然取り乱したカリューの様子を見て、ホレスは怪訝な表情で彼女を見返した。ごく自然な流れになる様に話していたつもりであったはずなのだが…?
「まさかお前…女の子たらし込んで…レフィルちゃんという子がありながら…!!」
「なに…?」
「え…!?え…!?」
 劇場と聞いてアッサラームの名物ベリーダンスでも思い浮かべて卑猥な響きでも一人で勝手に感じていたのだろうか…。レフィルが顔を赤くしながらうろたえているそばで、カリューは腰に手をあてながらホレスを凄い形相で睨みつけている…。
「違う、…というか何が言いたいんだ…??」
 女性とも出会ったというのは否定しないが、その言い様だと的外れもいい所である。ホレスは彼女の言葉の意図がまるで読めずに首をかしげた。
「オレはただ情報収集してきただけだ。…ここの町が発展してきた間に何が起こったかを知るためにな。」
「せやったらその中身!一体何入ってとるんや!?」
 しれっと答える姿勢に余計に苛立ちをおぼえたのか、カリューはホレスに掴みかかりながら彼が背負った…メリッサが土産と称した荷物を指差して喚いた。
「……ああ、これか。」
 特に驚いた様子も無く、ホレスはその中身を引っくり返した。
ガシャガシャガシャン…!
「……へ?ぶ…武器…??」
「どれも普通の武器だ。あんたの誘惑の剣やレフィルの吹雪の剣の様な気に入った品は無かった。まぁ路銀の足しにはなるだろうが…持ってても邪魔になるだけか…。こんな物で良ければ使うか?」
 床に落ちたのは…短剣や手斧などを小さいものを中心とした何処にでもありそうな普通の武器だった。剣や槍なども幾つかばら撒かれていたが、いずれも特別な力を持たず…武器屋が最低限の糧を得る為に打った気休め程度の強度しかない安価なものばかりであった。
「…な…なして武器……?」
「……あんた…一体何が入ってると思っていたんだ?」
 心底驚いた様子のカリューを見て…ホレスは呆れた様に嘆息しながらそう返した。
「あら残念だったわね、カリュー。…と言うより私もお土産だって期待してたのにぃ…ようやくホレス君が気の利いた行動をしてくれたと思ったのにちょっとがっかりだわぁ…。」
 メリッサは残念そうに…しかし何処か面白い様な物を見るような目で包みの中身とカリューをそれぞれ見ながら微笑んだ。彼女本人も『別のもの』を僅かながら望んでいた節があったらしいが、どちらかというと一連のカリューの反応が面白くて仕方がないようだ。
「…が…がっかりて…姐さん……そないな問題…」
 
「早合点し過ぎ。もう少し落ち着いたら?」

 にっこりと笑っているメリッサを見てがっくりと肩を落としているカリューに…誰かがぽつりと…しかしはっきりとした口調でそう追い討ちをかけた。
「…ムーちゃん…わては十分冷静…」
「……それで、何か分かった?」
 震える声でカリューが何かを呟く側で、その短くも辛辣な声の主…ムーはホレスに続きを促した。
「…やはり例の傲慢兵士連中が来た頃には既におかしくなり始めた様だ。」
 ”既に”…つまりは今も表で威を効かせている者達のせいだけではないと伝えたいらしい。
「………え?どういう事…?」
「……んん?どんなん?」
「ふーん…で、その内容を詳しく聞かせてもらえないかしら?」
 そんな彼の言葉にレフィルとカリューは首を傾げて、メリッサはその内容を尋ねた。ムーも目をしばたかせながらも話の続きが気になるのか、ホレスの顔をじっと見ている。
「さて…何処から話せば良い事だか。」
 ふぅ…溜息をつきながら、彼はその場に居た四人に語り始めた。

 ムー達が去ってからこの町…ハンバークはハン達をはじめとする、この地を切り開き…町の原型を築いた中心人物達が手綱を引き、住人達に指示を与えていた。しかし、カンダタ達の活躍で既に一つの町として成り立ち始めていた場面で、町というものを治める立場として…彼ら経験の不足が目立ってきた。
 
「…何も無い所に町を起こした功績は皆認めている様だが、その後に治める事が出来ていない…と言った所か。」
「うーん…、やっぱり甘かったわねぇ…。」
 ホレスの言葉に、メリッサはその穏やかな微笑みを少し罰が悪そうな表情で陰らせた。彼女も色々と指示書を書いてきたが、不測の事態の経験も無ければ、それに対する指導も満足には出来ない。更にはここに移民として集まってくるのは世界の随所からここに訪れている者達である。そうした不安要素が多い中であれば数えあげる事も出来ない程膨大な量の問題が出てくるに違いない。
「この様な辺鄙な場所に町を建てて、貿易の拠点としたのは間違いでは無い。問題はここに集まる者達の扱い…といった所か。」
「…扱い?」
「新天地を発見して探検家として名を馳せたエジンベア出身の男が居た。そいつは王の命を受けてそこに拠点を立てて新しく植民地を建てようとしたが、それは政治家としては三流以下だった為に原住民や他の同国の人間から大きな反発を受けた挙句、失脚している。」
「……。」
 水先案内人に留まっていればおそらくはその歴史の偉人はこんな悪名を残す事は無かった。
「集まる人間の処理の問題を抱えている意味では…丁度それと同じ様な状況じゃないのか?今のこの町は。」
 町を作る事と治める事もまた全く違う事が要求されるのは明白である。ハン達もまた、先を急ぎ過ぎて、行政の方が充実していないまま発展を重ねてしまい、人を治めきれなくなってしまったのだろう。
「…難しい段階に入ってるものねぇ。」
 口では軽く言っているが、もはや顔は笑っていない。責は無いとは言え、自分も関わった町が崩れていくのを見ているのはやはり辛いものがあるのだろう。
「それで…他には何か聞いていないかしら?そうねぇ…今の大まかな政情はどんな感じかわかる?」
 それだけに、今この町がどうなっているのか…更に詳しい情報が気になっているのか、メリッサはホレスに次の話題を振った。
「政情…か。上に立つ者…今もハン達が町を治めている現状は変わらない。やり方自体は典型に沿っているが細かい所で色々と不満がある…と言ったところで色々問題を抱えている様だがな。特に皆を働かせ過ぎる上に…税が重いという不満は何処に言っても聞いたね。」
「うーん…それって細かい事なのかしら…?」
「治める側からしたら嫌でもそうだろうさ。それを蔑ろにして良い理由には成り得ないが、他にも成すべき事があるんだからな。…全てを取るわけにもいかないだろうさ。」
 大局を見るが為に斬り捨てなければならない物も見定めなければならない。無論ハン達もその問題に直面して、嫌でも理解しなければならない事だから、彼らに改めて注意を促すまでも無い。
「だが、そうした事に全員が納得するはずも無い。町…或いは国の上に立つ者がしっかりしていないと不満がたまるのは当然の事だ。そもそもハンの名は冠されているが、そいつらだけの国じゃないんだ。」
 町民の不満が爆発する事態は既に差し迫っている。ただでさえ不安要素を抱えている状態で…町の規模、住人数共に大きくなった以上、少しのしこりでも残しているとそれが引き金になり…彼らが槍玉にあげられる可能性もある。一触即発とも言えるほどの慎重な判断を要する状況…試行錯誤などもってのほかだ。
「今はあの邪魔な兵隊がいる。あれがいけない。」
「……だろうな。」
 巡回兵があのように幅を利かせていては、外来の自分達は元より、慣れているであろう町民達もその高圧的な態度に不安を抱くのは当然である。
「…例の兵士連中は金で雇われているらしい。素性は知れないが、奴らは過去に金を積まれて雇い主を裏切った事があると聞いた。噂になるほどだからおそらく皆に知れているだろうな。」
「あら?…それは厄介ねえ…。」
「え…?どうしてそんな人を……。」
 満足する金さえ貰えれば契約も破る…そんな危険性は聞くだけで十分理解できるはずである。それを聞いて…メリッサが納得した様な表情を浮かべるそばで…更に疑念を深めたのか、レフィルは思わずそれを口に出していた。
「……ああ、それは一度この町に大きな魔物群が襲撃してきた事があったんだ。」
「…え?…ああ…だから……」
 すぐに返されたホレスの言葉に、彼女は納得した様に小さく呟いた。
「あいつ…カンダタの下で鍛え上げられた連中だけではそれを防ぎきる事が出来なかったと聞く。取りこぼした魔物が町民に手を出して死人まで出してしまったくらいだから…治める側としても無視できなくなったんだろうさ。」
「そうだったの……。」
「こんな状況だからこそ、兵の質を選んでいる状況ではなかった。他に優良な傭兵などならまだ山といるだろうが…今この町があるのはそいつらのお陰と言っても過言でないのも確か……とでも思って解雇も出来ないんだろうさ。それに、解雇したその瞬間に不満を抱く別の誰かに雇われて自分に矛先を向けられてもたまったものじゃないのは確かか…。上層部の連中と反目している資産家もいるとも聞いてるしな。」
「そんな……。」
 金が入れば契約さえ簡単に破る傭兵失格とも言える性質の悪い一団を抱える事…必要悪として扱うにもあまりにリスクが大きい…。しかし、それが無ければまた犠牲を出すかもしれないと思うと簡単に考える事も出来ない。そんな状況にある事を聞き…レフィルは憂いに満ちた表情でそれを語ったホレスを見た。
「ふぅん。じゃあ今おかしくなってる原因は、政治面の細かい問題と傭兵さん達の問題って言いたいワケね。」
「そんな所だな。騒ぎが起こらなければ良いが……。」
 上に立つ者のミスという意味で結局はどちらの問題も同じ線上にあるが、今町を主に脅かしているのは後者の問題の方だろう。止むを得ないとはいえ、ホレスの話からも…彼らはかなりの危険要素と取れる。
「かと言って、既に発展し尽くしたこの町で…オレ達の様な部外者が割って入る余地は無い。出来る事はおそらく見届ける事だけ…か。」
「そうねぇ…。見てて嫌だけど…なる様にしかならないものねぇ。」
 そもそもメリッサは横から助言程度に口を挟む程度の事しかするつもりがなかった為、初めからこのまま静観を決め込むつもりではあったのだが、仮に彼女が身をもって貢献する気で助けに入ろうにも、町を離れてから時が経ち過ぎている…。そして、一触即発ともいえる状況も手伝って、悪戯に手を出せば逆に自分達が大火傷を負いかねない。どのみち今更動いた所で流れは変わらない…そうした結論に至った。
「あの…ホレス……」
 皆がそれぞれ思う所があって沈黙している中で…一人レフィルが声をかけた。
「…ん?」
 呼ばれた黒装束の青年は静かに応えながら、彼女に目をやった。
「一人で居た時…何があったの…?」
「…ああ、やはりこれの事か。」
 地面にばら撒かれた武器の方にちらっと目をやっている様子に、ホレスはレフィルが何を言いたいのかを確信した。何処でその様な大量の武器を入手してきたのだろうか…と疑問に思っているのだろう。
「劇場での聞き込みを一通り終え、切り上げようとして出ようとした時の事だ。」

―お帰りですか?
―ああ。
―それでは、料金50000ゴールドを頂きます。
―料金?……約束が違うな。ここは入場料は無料だったはずだが?
―その通りでございます。ですが、そういう決まりなものですから。
―……。
―お支払い頂けないなら治安部の方をお呼びしなければ…
―さっきの男には料金の請求がなかったようだが?
―さ…然様ですか…。ですが、あの方は特別会員の方でして…
―見え透いた嘘を吐くな。
―…はい?
―オレは全て聞いていたんだ。…カモになりそうなヤツを狙えとか何とかな?
―……!?
―これが知れれば不利になるのはあんたらの方だと思うがな?
―…で…ですが、これは決まりで……
―いい加減に黙れよ。オレは急いでいるんだ。
―それは…お支払い頂けないと言う事でしょうか?
―何度も言わせるな。
―……ああそうかい!それなら話は簡単だ!
ブンッ!!
―バカが…。

―『鬱陶しい。』
ブンッ!!
バチィッ!!
―が…!?
―いでぇっ!!
―『動くな。こいつの命が惜しければ武器と有り金全部置いて、とっとと失せろ。それと、もし追って来る様な馬鹿な真似をしたら…その時は容赦無く殺す。』
 
「……っ!?」
「……はっは…。」
「お…おいおいおい…!?」
「あらまぁ…」
 ホレスが一通り話を終えた頃には、その場に集まった者達の多様な反応で…先程の静寂が嘘の様な騒乱ぶりとなった。
「って…お前の方がカツ上げしてどないすんねんっ!?」
 一番驚いたのはやはりカリューの様だ。無論彼女とて…普段のホレスの無茶を知らない訳では無い。だが、今の話のあまりにとんでもない内容に…目を剥かずにはいられなかったのだろう。
「ホ…ホレス…それって…」
 簡単な話、劇場から出ようとした時に出口の係員に突拍子も無い金額を要求されてそれを断わった為に腕ずくで取り押さえられそうになったところを鬼神の仮面の力で返り討ちにして、逆に彼らから武器と金を巻き上げたという事だった。
「……別に、向こうから仕掛けてきた事だ。」
 別に金にも武器にも困っていない状況だったが、本人としては仮面の持続時間の問題から、少しでも追撃を防ぐ程度の意識で行っているに過ぎなかった。
―犯罪…じゃ……?
 だが、レフィルはその一部始終を聞いて…
「だ…大丈夫……なの…?」
 彼の罪に問われる程の乱暴なまでの行動に嫌悪こそしなかったものの…違う意味で激しい不安が立ち込めてくるのを感じて思わずそう尋ねていた。
「心配はいらない。案の定追ってきたバカがいたが、爆弾石で黙らせた。まぁ仕損じたがな。」
「しそんじ…って、街中で投げたんかいっ!!?」
「ばくだ……、…えぇっ!?」
 レフィルは彼から返って来た予想外の返答に…またもカリュー共々絶叫してしまった。
「あらあら…随分と豪快ねぇ…。」
「ね…姐さん、そ…そういう問題ちゃうやろ…。」
 確かに驚いてはいるものの、純粋に面白がっていたメリッサに…カリューは叫んだ後の息絶え絶えの状態でそう毒づいていた。
―や…やりすぎじゃ……?
 ホレスの聴力による気配察知と投擲の熟練具合を信じていないわけでは無いが、それ以前の問題である。一歩間違えたら大騒動も引き起こしうる色々な意味での危うさに、レフィルはますます不安による緊張を深めていった。
「…面白そう。私も一緒に行けば良かった。」
「…え…!?ちょ…ちょっと…ムー…!」
 ただ一人、終始興味深そうに話に聞き入っていた赤い髪の少女の言葉も…レフィルを動揺させるに十分だった。
「おーい…レフィルちゃん…大丈夫かぁ…?顔色悪いぜ…」
 幾度も周囲に驚かされて…混乱し続けて何処か具合が悪そうにうなだれているレフィルを見かねてマリウスが声をかけた。
「あ……す…すいません…。」
「おうおう…、そりゃあ誰だってあんな事聞いてたら落ち着いちゃあいられねぇよ…。あー…そうだな。誰か水持ってきてくれないか?」
 荒く息をつき…軽く赤面しているレフィルと、周りで未だに騒いでいる面々を見回しながら、マリウスは皆にそう告げた。
「…あ、ごめん…ホレス……。」
 彼の言葉にすぐに自分に水筒を手渡してくれたホレスに、レフィルは身を竦めながら彼の顔を見上げた。
「気にするな。別にオレとてお前を混乱させるつもりでこんな下らない事をしてきたわけじゃないさ。」
「…そ…そうだよね……。」
「まぁ油断していたのは否定できないか。以後気をつけよう。」
「うん……。」
 水筒の水をすすりながら、レフィルはホレスに頷いた。本人も望んでやった事ではなく…少なくとも彼なりの善処はしているのだ。そう思うことで、少し落ち着ける様な気がした。
「しかしまぁ…無鉄砲ってのは本当なんだなぁ…。」
「はっは、相変わらず期待を裏切らないものですな。」
 とはいえ…多くの者には、手馴れた追いはぎの様な者達から逆に金品を強奪した様な響きに聞こえてしまったらしい。
「そうだなぁ、今度は俺が一緒についてってやるよ。そうすりゃ因縁つけられる事もねぇだろうしさ。」
「それがよろしいかと。」
「せやせや。これ以上無茶されても…わてらが困るだけやし。」
「そうねぇ。」
「……。」
 ”真紅の鎧”の二つ名で知られるマリウスが共にいるだけでも、弱きを付け狙う輩への威圧は十分ある…が、それに余計な野次の様な言葉を口々に言う者達を…ホレスは沈黙して見返した。
「…ホレス。」
「……?」
 ふと…そんな彼を、後ろから袖を引っ張りながらムーが呼びかけてきた。
「暴れるのは良いけど、街壊さない様に気をつけて。おねがい。」
「それは…悪かった…。」
 思えばムーもまた、この町に馴染み…時には発展に協力もしてきたのだろう。真っ直ぐに自分の目を見つめながら告げられた言葉に、ホレスは思わず…初めて申し訳ないとばかりに彼女へと詫びた。
「でも、あなたが無事で良かった。」
「…ムー?」
 罰が悪そうに頭を掻いていた所でムーにそう言われて、ホレスは彼女に向き直っていた。
「帰ってくると安心する。絶対死なないと分かってても。」
「…おいおい、オレは不死身じゃないんだ。」
 ザキや呪術の類が効かず…死に至る様な傷を負ってもじきに立ち直れる体力があるなどとは言っても、ホレスも所詮は一人の人間に過ぎない。”絶対死なない”と言い切るムーに呆れた様にホレスは溜息をついた。
―…まぁ、オレも随分ついているらしいがね。
 世界樹にて、レフィルに吹雪の剣で斬りつけられた時も、本体から放逐されたムーの意識との干渉によるベホマの呪文によってどうにか命は取り留めた。他にも自身の体力の限界を超えて死を迎えようとした時に、必ず助けてくれる者がいた。レフィルやムーをはじめとしたそうした者達との出会いに、ホレスは感謝したくもなると改めて思っていた。