第十八章 何が為に
「だぁああっ!!くっそぉ!!どうして俺らが閉じ込められなきゃならねぇんだ!!」
 湿気が強い地下牢の中に…囚人の怒声が響き渡った。鉄格子で外から隔てられた小部屋に筋骨隆々とも言える様な大男達が閉じ込められている。
「くっそ…!町長さんまで…、あいつら…新参者の分際ででしゃばりやがって…!!」
「何が”前々から気に入らなかった”だ…!それは俺達の台詞だってんだ!」
 共に捕らわれた仲間も口々に内に溜め込んだ不平不満を吐き捨てた。
「…ごめん。みんな…。私のせいで…」
 隣の牢から…罪人の溜まり場に相応しくない程のか細い声が捕らわれた男達の耳に届いた。
「んにゃ、町長さんは悪かねぇよ。」
「……ハンの旦那、今頃どうなさってるでしょうね…。」
 彼らは声の主の少女の言葉に首を振りながら、なだめる様に言葉を返した。
「うん…。とても心配…。きっと私の分の責任を背負わされてる…。」
「だぁからあんたが気に病む所じゃねえって。私兵団雇い入れるのに旦那も俺らも賛成したんだからよ。」
 町長と呼ばれた少女はこの場に居ない良き理解者を案じて牢窓の外を仰いだ。
「魔物が来るかもしれないって旦那の言がそもそもの始まりじゃああったが…」
「くそ…!よりによって…旦那が奴等とグルだったなんてな…」
「バカヤロウ!!ンな事言ってんじゃねぇ!!」
「…けどよ…、だったらどうして旦那は捕まってないんよ…?もしかしたら…」
「…あの人は誰よりもこの町の発展よりも…俺らの事を第一に気を配ってくれてたじゃねぇか!!てめぇ…旦那を信じられねぇってのか!!?」
「……す…すまねぇ…。」
 牢と言う閉鎖された空間に押し込められて不安が増大したのだろう、自分達が慕っていた者に対する不信を募らせる者もいたが…その一方で彼を信じ切る男がそれを諌めた。
「……よりによって魔法なんかで強化しやがって…!!俺らの力でもひん曲がらねぇなんてよ…。かといって呪文もまるで効きやしねぇ…。」
「アバカムでもありゃあな…。」
 屈強な男の力でも破壊に特化した攻撃呪文によっても壊れない鉄格子に対して閉じ込められた男達は成す術も無く地団駄を踏んでいた。

「そんな呪文なんか必要なくてよ。」

「…!!」
ガチャ…!
 その時…突然誰も居ないはずの空間から…女の声と共に、牢を閉ざしていた錠前が外されて床にドカリと落ちる音が聞こえてきた。
「だ…誰だ!?てめぇ…」
 突然の事に、牢にある者達は驚いて目の前を凝視した。
「そう構えなくてもいいわよ。アナタ達のお仲間さんに依頼されただけ。」
 そこに立っていたのは…闇に溶け込む様な黒衣を身に纏った銀髪で褐色の肌が特徴の女だった。
「仲間…?まさか…」
「そこで口に出して言いワケ?アタシとしても裏仕事の途中で余計な事は言われたく無いのよ。それを破ったら口封じに殺していい。そういう約束だから。」
「……。」
 裏の手の者を使って自分達を助けに来させたのだろう。やはり見捨てた訳では無かったと思う一方で、目の前の得体の知れない女に任せる事に対して複雑な心境を抱いていた。
「さ、あのお馬鹿ちゃん達が目を覚まさないうちに…」
 怪訝な顔で睨んでくる男達に、銀髪の女は特に気にした様子も無く先導して歩き出そうとした。
「…私は残る。」
 しかし、町長の少女は立ち上がろうとせず、牢の隅に佇んだままそう声に出した。
「な…!?町長さん!?…なんで…!」
「しっ…!落ち着け。…で…何だって…」
 驚きのあまり叫びそうになった男を慌てて押さえつつ、その相棒が彼女にそう尋ねた。
「看守が気がついて私達がいない事に気付いたらすぐに町中を探し始める。私が残っておとりになる。」
「お…おい…!」
 結局は発覚してしまう事にはなるが、自分を問いただそうとする際に時間稼ぎ…或いは人員を割くことくらいなら出来るかもしれないと考えたのだろう。だが、共に捕らえられていたはそれをすんなりと認めるほど非情にはなれなかった。
「大丈夫よ、お嬢さん。どの道アナタ達を捕らえたのも別に正式な手続きを踏んだワケじゃないのでしょうし。」
「………。」
「アナタに残られると人質にされる事だって有り得るから寧ろ逆効果ね。それにまだ町の皆さんにはアナタが捕らえられたってウワサは広まってないわ。さ、行きましょ。」
 女は捕らわれの町長を落ち着いた様子で説き伏せると、彼女が入れられている牢の錠前をこじ開けて、その扉を静かに引いて手招きした。


「見事にバラバラだな…。」
 波音が静かに鳴る海岸に転がる木片を見て、ホレスは嘆息しながらそう呟いた。
「はっは…あまりに後先考えなさ過ぎでしたな。」
「……あっはっは…どんまいやね…。」
 目の前に広がる無数の木片は…役目を終えた船の亡骸であった。回収し損ねた積荷のいくつかも海に浮かんでいる。
「ハンさんに…謝った方がいいかしら……。」
「せやなぁ……。」
 元はと言えばハンの黒胡椒貿易のお礼として貰った物である。借りたと言うわけでは無い為好きに使って良い物ではあったが、それまでにもこの船にはかなりお世話になってきた。改めてお礼位は言って悪い事は無い。

「らしくない……。」
 
「え?」
 突然ホレスが小さく首を振りながら額に手を当てて、小さく呟いたのに対して、レフィルはきょとんとした様子で彼を見た。
「…商人さんどうしてるかしら?」
「…ん?ハンの旦那の事が気になるのかい?」
 ハンの名が話題に出た所で思い当たったのか…メリッサが口に出した言葉に、マリウスが相槌を打った。
「ええ。私もあの町作りに本格的に携わったくらいだし。今どうなってるのかやっぱり気に掛かるわよぉ。」
「そうなんだよなぁ。俺も料理を本格的に振舞ってやった奴らが今どうしてるか何だかんだでな。」
 ハンだけではなく、開拓者の集落の者達とも親交を深めていただけに…短い期間だったとは言えども強く印象に残すには十分な思い出がある様だ。
「……でも、カンダタがいないのは残念。」
「そうねぇ。あの人たち…親分さんの事買ってたものね。」
「…はぁ…どう言えばいいんだろ…。」
 ムーの言葉通り、この場にあの町を作る大きな立役者となったカンダタの姿は無い。呑気に返すメリッサとは対照的に、マリウスは彼が戻らぬ事を皆に伝える時が来るであろう事を思い、深く溜息をついていた。
「え?…カンダタさんも町作りに?」
「ええ。頑張ってたわよ。皆彼にしっかりついてったくらいだし。」
「伊達に盗賊団まとめてない…ということか。」
「ですな。」
 陽気で豪快な人柄…加えて大きな体躯…、剛き男であればおそらく憧れるであろう姿に惹かれてもおかしくは無い。盗賊団一つを持つ程の生来のカリスマ性と共に…そうした魅力で皆を纏め上げて町作りに励んでいた事だろう。もっとも…そのあまりに奇天烈な出で立ちを見てしまえば分からなくもなるものだが。
「…発展してる町なら、きっとカンダタも喜ぶと思う。いつか連れて来たい。」
「……そうね…。」
 カンダタが戻らぬ今、ムーの望みは叶わない…おそらくは永遠に。彼女に頷きながらも…そう思うとレフィルはとても悲しくなった。
「ムー…。」
 ホレスもまた、届かぬ願いの虚しさの様な物を感じていた。
―しかし…あいつは本当に死んだのか?
 ムーが何も知らないはずは無く、寧ろここにいる誰よりもカンダタが遭った事について分かっているはずである。しかし、僅かな声の揺らぎも見せずに事も無げにそう言ってのけるのは…ただ強がっている様にも見えない。
「……だが、どうやって行く?場所はポルトガの西…と聞いたが…?」
 ホレス達が乗ってきた船は壊れて目の前にある通りの状態である。
「海賊さん達の船があるけど…少し遠いかしらねぇ。」
―…本当に海賊を手なづけていたのか…。
 海賊団”赤の月”を相手に暴れた事はいつか聞いた気はしたが、遠くに見える黒い帆に赤い円が描かれた船を見て確信した。
―……しかし、確かに遠いか…。
 目的地まで単純に地図の横半分程の距離があった。普通の船では些か時間が掛かる事となる。
「大丈夫。私に任せて。」
 難しい顔をして考え込んでいるのを見かねたのか、ムーはホレスを安心させる様にそう告げた。
「…ムー?」
 目の前に…覗き込む様に見つめてくるムーにホレスは目を丸くした。


「……ここが…移民の町か。」
 まだ敷石や建物がかなり新しい事から出来て間もない…否、おおよそ想像を絶するスピードで町作りが行われているのが感じられる。そんな町並みを見て、一行は思わず立ち止まった。
「うひゃあ…随分立派になったじゃねぇか。」
「そうねぇ…。無理してなきゃいいけど…。」
 マリウスとメリッサも口々にそう言っている。以前滞在していた二人も驚くほどの発展速度の様だ。
「…無理…か。ムー、大丈夫か?」
「…何?」
 町に目を奪われている一行をよそに、ホレスはムーに話し掛けた。
「さっきのルーラの事だ。使えないオレには分からないが相当お前にも負荷が掛かったはずだろう?」
 もともとルーラの呪文で一度に運べる人数は然程多くない為、ただ八人を運ぶだけでもかなり難しい。それに加えて各々に目的地までの記憶が無ければ飛ぶ事自体が普通なら出来ない点を補うのもおそらく簡単ではない。
「その事?だったら大丈夫。心配しないで。」
 しかし、その様な事に対しての懸念を抱くホレスに対し、ムーは何事も無い様にそう返した。
「…そうか。しかし…まさかお前一人の力で船ごとルーラで移動するとはな…。見たところ船には何も術式は施されていなかったが…。」
 船をルーラで移動させるのと一緒にに自分達も共に飛んだ事ならば、ハンに貰った船に追加で施されたアリアハンの魔法技術を用いて行った事はあった。しかし、今度は赤の月の海賊船をそのまま拝借しただけの物だったのでその様なものは特に付いていない。
「どんなもの?」
「呪文を増幅して船全体に施すものだ。まだ試作段階の物だからあまり過信できないが、オレ達はルーラの呪文を船に施す事でダーマの方からジパングを経て世界樹の地方まで来たんだ。」
「そう。だったらたぶん原理は同じ。別のもので代わりを果たしただけ。」
「同じ?じゃあお前もあれを知っているのか?」
 自分達の船に施した技術の説明に対するムーの反応に、ホレスは首を傾げつつ尋ね返した。すると…

「知ってるも何も、前に作った事がある。」

 彼にとっては予想外の言葉が返ってきた。
「…何だと!?アリアハンの宮廷魔術師達が必死になって開発した技術なんだぞ…。それと同じ様なものをお前一人で…。」
「別に。ただの暇つぶしだもの。」
 驚きを隠せないホレスに対して…更なる追い討ちをかけるかの如く、ムーはポツリとそう言っていた。
「……なにぃっ!?…暇つぶしだと!?」
 その返答に、ホレスは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。彼自身もその技術を少し拝借して更なる応用を加えた事はあったが…流石にムーの様に一から自分で作る事はできなかった。
「ふふ…、時々気まぐれで凄いの作っちゃうのよねぇ…この子ったら。」
「……。」
 しかも、完成までに簡単…とも行かなかったにしても、然程苦労した様子も無い様に聞こえて、ホレスの驚愕は深まるばかりであった。
―…そうか、やはりこいつは魔法使い…なんだな。
 ピラミッドにおいても呪文と違った魔法に因る力を用いて道を示した事もあった。メドラとしての記憶が無いとしても、元々魔法に対する資質は計り知れない程あったと言う事だろう。
「…天才…か。」
「……?」
 ホレスが思わず呟いた言葉に、ムーは彼の重苦しい表情が張り付いた顔を覗き込みつつ首をかしげた。
「うん、この子に丁度良い言葉ね。」
「…はっは。まぁダーマにいた頃は大秀才でしたがねぇ。」
「あら?そうなの?」
―…大秀才?
 ニージスが言った事から、ムーは自分の掌を眺めながら…眠りに落ちた時に見たあらゆる場面を思い返した。それに現れた赤い髪の少女は何処に居ても鍛錬を怠らない生真面目な性格をしていた。
―私が力を持ってるのはあなたの努力のおかげ…
 ダーマにいた頃の記憶は全く憶えていないままではあるが、シャンパーニの塔でカンダタと共に過ごし始めた時には既に色々な呪文…加えてある程度の魔法をも特に多くを学ばずとも初めから使う事が出来た。過去の自分が積んだ厳しい修練の中でそれが体に定着した為か…。
「……。」
 その答えを今得る事はなかったが、今知る必要も無い。ムーは考えるのを止めて前を向いた。
「まぁここで突っ立ってるのもなんだ。レフィルちゃんも待ってるしそろそろ行こうぜ。」
「…ああ。」
 ムーが使った呪文が話題に出たために皆が話し込んでいる一方で、レフィルは町の光景に目を奪われていた。


「…凄い…、こんな町が本当にたった半年で…?」
 踏まれる前の雪の様に真新しさを感じさせる敷石を見ても、これが少し前までは未開の大地だったとはレフィルには到底信じられなかった。
「だろ?半年くらい前まで只ののっぱらだったってのに、随分と発展してるじゃねぇか。」
「そうねぇ…。」
 彼女の言に以前この町に滞在していた二人が同意してそれぞれ共感していた。
「だが、様子が変だな…。」
 しかし、その発展した町並みとは裏腹に人通りがやけに少ない。それは夕暮れのせいだけではなかった。
「旅人か。」
 その代わりに兵士達が町を巡回しており、厳戒態勢を敷いている。これではこの時間でなくとも気楽に町を出歩けるわけが無い。
「ここは拓かれし地ハンバーク。しかし、よそ者が好き勝手する様な場所ではない。」
「……。」
 町の入り口付近で外を見張る兵士の言葉も決して歓迎の意がこもっているものではなく…
「用が済んだら早々に出て行くが良い。騒ぎを起こさぬ内にな。」
 そればかりか、閉鎖的な町の姿勢すら表している。
「……随分と偉そうなヤツらだなオイ。…というかあんな奴らいなかっただろうが。大方町の警護に雇われたんだろうけどな。」
「同感だ。移民が集まったと言うならばよそ者と言うのはナンセンスだろう。」
 数多の来訪者を受け入れて発展してきた町を護る者にあるまじき言葉に対するマリウスの皮肉にホレスも頷いた。おそらくは少し前までは彼らも部外者であったに違いない。その様な者達がサマンオサの戒厳令の下にある兵士達を思わせる様な高圧的な雰囲気を撒き散らしているのは町の状態からしても明らかだ。
「いや…まさか新しく来た良からぬ輩が何かをトラブルでも起こしたのか…?」
「……ああ、成る程な。んにしたって…寂しいモンがあるぜ。」
 ホレスが示した一つの仮説…重大な過失を繰り返すまいとする人間の保守的な一面が必要以上に警戒を強くしてしまったのだろうと言う事である。この説が正しければ、よほど差し迫った状態とは言え移民達自身の手で…更なる新来者を拒む状態を作り上げた事になってしまったのか…と、マリウスは嘆息した。もっとも、町を護る者達はマリウス達にとっても馴染んだ顔ぶれではなく、そうした事情があったとしてそれを詳しく知るとも限らないのだが。
「でも…まるで我が物顔。気に入らない。」
「ムー?」
 下から苛立たしそうにそう呟く声が聞こえて、皆がそちらに向いた。
「こんな嫌な町をカンダタが望んでいたんじゃない。」
 町を護っているのは自分達だ。その様な重大な立場にある事が驕りと転じて他の者へと重圧を与える…サマンオサが行っている様な恐怖政治では無いとしても、やはり居心地が悪い。或いはカンダタが作った町がその様な下らないものになってしまった事を心のどこかで嘆いているのかもしれない。
「……そうね。……あ、それと今言うのも難だけど…」
 ムーやマリウス…ホレスの言葉を静聴して同意を示しながら、メリッサは言い難そうに別の話題を切り出そうとそう皆に語りかけた。
「…え?」
「…何か?」
 先程とは打って変わって不安そうに町を見回しているレフィルとニージスも、その言葉に振り返った。

「最近商人さんからの手紙が届かなくて心配なのよねぇ…。彼の身に何かあったんじゃないかってね。」

「「…!」」
 メリッサの言葉に皆が思わず絶句していた。確かに言う時期としては今更であるが、その僅かな言葉はそれ以上に予想以上に事態が切迫している事を示すに十分な内容だった。
「……そうか、あんたがここに来たかったのは…」
 いつもながら実にゆっくりとしたマイペースな彼女に呆れた様子もなく、ホレスもまたすぐに状況を理解した。ムーがメリッサが作った魔法の封筒を用いていた為、その便利さは彼も知っている。おそらくはメリッサとハンでの間でもそれが用いられていたのだろう。そして…その交流が最近途絶えてしまった事の意味も自ずと分かる。
「そう。あの時言った様に『商人さんがどうしてるか』…それがどうしても気になってね。最後に相談に乗ってあげた時から返事が来ないから今どうしてるのか分からないのよぉ。」
「…はっは、人は人と割り切れてる君らしくないですな。」
「だってぇ、さっきも言ったでしょう?私だってこの町の発展に携わったんだからぁ。」
「うへぇ…流石姐さんやね…。」
 ニージスは随分な言い様をしているが、無論メリッサとてハンの事は心配なのだろう。しかし、そう言い切れるだけの彼女の逞しさに、カリューは呆れたのか感心したのか分からない口調で呟きながら薄ら笑いを浮かべた。
「どの道今のこの町がおかしい事には変わりは無いわね。ホレス君にはあちらこちらで色々聞こえてるみたいだけど…」
 他の者もまた微妙な反応をしているのに対して苦笑した後、そんな中でただ一人仏頂面で辺りの様子を窺っているホレスにメリッサはそう話し掛けた。
「そうだな。だが、それだけではあまりよく分からない。もっと人が集まる所で聞き込みでもして来よう。」
 そう返したもののそれでも大体の事情は飲み込めているらしい。ホレスは一人一行から離れて歩き出した。
「それがいいわね。じゃああそこの宿で待ってるからそこで落ち合いましょう。」
「ホレス…気をつけて。」
 メリッサとレフィルの言葉に一度振り返り頷いた後、彼は兵士達が徘徊する表通りを避けて裏路地へと消えた。 
「じゃあ俺達も行こうぜ。…つっても宿だけなんだがよ。」
「そうね。」
 少し遅れて、残りの皆も宿に向かった。
「あれ…?ムー?」
 その様な中、ムーが立ち止まっているのが目に入って、レフィルは振り返った。
「……。」
「……??どうしたの?」
 声をかけても黙って町の奥を眺めているだけだった。少し心配になって、レフィルはムーの顔色を窺いながら尋ねた。
「…なんでもない。すぐ行く。」
 彼女は表情を変えないまま…しかしどこか不満そうな様子でそう返しながら、宿に向かう四人に付いて行く様に足を勧めていった。
「?」
―……えっと…?
「……ムー?」
 結局普段何を考えているのかまるで読めないのは別れる前と同じらしい。レフィルは赤い髪を揺らしながら歩く少女の後ろ姿を眺めてながら…暫く立ち尽くしていた。