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災禍の申し子 第九話
コツン……コツン……
「……。」
 死の匂いを纏った…そう形容できるであろう雰囲気…それは目の前に立つ少女にはあまりに不相応なものであった…。
「…メドラ……」
 燃え上がる炎のそれよりも深い赤の長髪…纏うマントも赤であったが幾分薄い…。ピンクと言えば可愛げもある…が、。額に開いていた血塗られた様に赤い瞳は…今まさに閉じ……そのまぶたも跡も残さずに消えた……が、それでも残りの二つ…不気味とも言える程の光無く暗い緑の双眸がムーへと向けられている…。


―…な…あれはメドラ!?
―……。
―…おい!まだガルナの塔は…
―うるさい。
―…!!
―…ラリホー
―…ま……まて……!
―……アバカム
ガコンッ!!ガラガラガラガラ…

 天を衝かんばかりの空高い塔…その閉ざされた扉を守る門番をラリホーで眠らせて少女は開錠呪文アバカムでその重い扉を開いていた。

―待て!!
―……。
―メドラ!大人しく引け!今ならまだ間に合う!
―…もう手遅れ。そもそも私は初めからダーマの賢者になるつもりなんか無い。
―…ッ!?…誰の差し金だ!?
―……邪魔しないで。
―何としても取り押さえろ!!
―…ルカナン
―…ッ!?スクル…
―バイキルト
ガッ!!
―がは…!
―…こいつ…!!
―……バギマ
ビュオオオッ!!
―…ぎゃ…!あでで…!!
―どわあああっ!!
―…時間が無いの。早くどいて。

 門番らしき戦士達を呪文で翻弄し、あるいは自らの体術で直接打ち払いながら…赤い髪の少女は更に奥へと消えていった。

―イオラ!
ドガァーンッ!!
―…おぉうっ!!こんな所でそんな呪文使っちゃ危ないでしょうが!
―……我、人の裡を捨て汝が境地へ身を委ねん。背徳の化身にして神の眷属たる其は今此処に目覚めよ!
―…!
―ドラゴラム…!

グォオオオオオオオンッ!!!

ギシャアアアアアアッ!!!
―…おぉうっ!?…これは一筋縄ではいかないようで…!
ビシィッ!!!
―あぐ…っ!!…はっは…流石にドラゴンだけにありますな…
―…死にたくなければ帰って。
―……殺す気は…無いと?
―……。
―…ならば安心して戦えますな。
―………甘く見ないで。今の私はもう戻れないから。
―はっは、私とてダーマの賢者の名を背負ってるものでしてね。煩い上司に騒がれたくないもので。…と言っても、君の覚悟に及ぶかはどうかは火を見るよりも明らかですが…。
―……。
―…もっと早く言ってくれれば…。私はこれでも君の友のつもりでしたからねぇ。
―………友達…。

 放たれた呪文や竜化の呪文に大仰に驚き…呆気なく一発喰らったにも関わらず…余裕の笑みを絶やさずに…賢者を課せられた蒼い髪の青年は人間よりも幾分大きな真紅の竜へと杖を構えた。

 そして…その時がやってきた…。

「……ここが…。」
 メドラの目の前に分厚い本がそれ専用の台座の窪みに安置されている…。
「…待っていたぞ。メドラよ。」
「……マクベス。」
 何も無いと思える様な暗闇の中から…一人の初老の男がメドラへと歩み寄った。見覚えがあるのか…彼女はその闖入者の名前を抑揚無くポツリと呟いた。
「ほぉ、最早取り繕いもせぬか。」
「……。」
「まぁ良い。全てはこの時の為にある。最早そなたが他から咎められようとその様な些末事等無為に等しい。」
 上の立場の者を敬う事の無い少女の不遜に…返って実に面白そうに歪に笑みを浮かべて…マクベスは言葉を続けた。…それは長い事忍耐の中にあり、ついにその成果を得られて解放される者の報われた様な気持ちを感じさせる抑揚だった。
「…さぁ、手に取るが良い。これが”悟りの書”だ。これに認められし時…そなたはダーマの賢者となる。…そう、それは如何に神官長と言えど…そしてそなたが咎人であろうと覆せぬ事じゃ。」
 何処か酔い痴れた様にメドラへとそう告げながら…マクベスは台座に置かれた巨大な辞書よりも更に分厚い本を彼女へと手渡した。
「……どういう意味?」
「……さてな、お前次第じゃ。」
 メドラは暫くその本…”悟りの書”を抱く様に手に取り…パラパラとページをめくり始めた。
パタンッ
「………インパス」
 だが、すぐにそれを閉じて…解析の呪文…インパスを唱えた。その後暫くの間…メドラは目を閉じて悟りの書へと意識を集中していた…。
「…ほぉ、もう終わったのか。」
「………。」
 そうしていたのも大した時間ではなく…メドラは目をあけて悟りの書から手を離した。
「……現賢者のニージス含む追っ手を全て倒してきたと言うではないか。もっとも、あやつは只の騙り者でしか…」
「うるさい。」
「!」
「あなたにニージスの何がわかるの?」
 マクベスがニージスを悪い様に言っているのが癇に障ったのか、メドラは初めて嫌悪感を露わに彼を凄んだ。 
「メラミ」
 そして…何の前触れも…躊躇も無く、床に無造作に置かれた”悟りの書”へと火を放ち…それを一瞬で焼き払った。
「…悟りの書は失われた。私はもう賢者となる事は無い。」
「……。」
 膨大な量の知識を詰め込んだ悟りの書がメドラのメラミ一発で灰燼へと帰した様子を…マクベスは表情を変えずに無言で眺めていた。
「……それに、多くの知識を得た今…私はもうダーマに用は無い。」
 インパスによって悟りの書の多くをモノにして…既にそれは用済みであった。
「…言いたい事はそれだけか?」
「…?」
 悟りの書の灰を踏みにじりながら…その場を後にしようとしたメドラを…マクベスは低い声でそう呼び止めた。
「…愚か者が。ワシが何も知らぬとでも思っていたのか。」
「…!?」
「そなたが賢者としての修練を厭うておった事…それが分からぬ程ワシは厚顔ではない。」
「…何を今更。それを分かってて続けさせたあなたは何?」
 初めの一言を聞いて…メドラは一瞬硬直したが…後に続けられたまさに厚顔そのものである言葉を聞き…逆に苛立ちを覚えて斬り返した。
「…ふぁっふぁっふぁ、勘違いも甚だしいの。賢者といえど所詮は子供か…」
「…!?…私は賢者じゃ…」
「……悟りの書…それは賢者たる資質を封じた本そのものを指すに過ぎない。既にそなたは試練の中にある。…何処に逃げようと避けられる者ではない。どうあってもそなたは賢者として…」
「………うる…さい…!!」
 執拗に賢者を求めるマクベスに…メドラは遂にその無表情の仮面を崩し……鬼神にも匹敵する程の怒気をその顔に映し出した。
「天の最果てに普く光球…其は総てを灼き、総てを灰燼に帰せ…メラゾーマ!」
 そして…その激しい怒りを象徴するような巨大な火球がマクベスを飲み込んだ。
『…フン…血迷ったか、最も…そなたならば必ずそうするとも思っておったがな。』
 だが…炎の中にあって尚、彼が燃え尽きる事は無かった。そして…吐き捨てられたその言葉から…この事態すら想定の内にあったと言う事になる…。
『例え今ワシ一人殺したとて…何も変わりはせぬ。』
「……!」
『そうじゃな…こうして修羅となり…弛んだダーマの連中を粛清するもまた一興…。そして…そなたは処刑人…破壊の賢者として頂点に君臨する…。ハッハッハ…実に面白いではないか…まさに……』
 
「黙って!!!!」

 初めから野心ある者の掌の内で道具として踊らされていたに過ぎない…。それがますますメドラの怒りを募らせるばかりであった…。
『そなたとて望んでいた事であろうに。世界の全てを…の様に破滅に導く事を…』
 
「…ニフラム!!」

 激昂した彼女の心に呼応したかの様な目を灼く様な光がマクベスの幻像を包み…それを一瞬で消し去った。
「…はぁ……はぁ……」 
 怒りに任せて大声で叫んでいた為か…メドラは息苦しさを感じて胸を押さえて目を閉じた。
―汝…試練に身を委ねるに値せず!!
「……っ!?」
 その時…何者かの声が頭の中に直接響いた。
―偽りの叡智で我が試練に耐えること能わず!!…悠久の怒涛の内で己が心と共に朽ち果てよ!!
ズキンッ!!
「……あ…あああ…!!!」
 流れる声の様なものと共に…凄まじい頭痛がメドラを襲った。 
「……うるさい!!!」
ガクンッ!!
 それを払拭するように大声で叫んだ瞬間…それは収まったが…同時に彼女は床に膝を屈した。
「………私の心は私の物……お前が邪魔するなら…そうなる前に全部……最後にはお前も消し去ってあげる…」
 やがて…落ち着きを取り戻した様に…静かにそう呟きながらメドラは立ち上がった。しかし…矛先が定まらず収まらぬ怒り…それに囚われたに過ぎない事を彼女はまだ知らなかった。
「…最果てに伏したる数多の蠢く者共よ、汝は創世の光の奔流と化して我が元へ集え……」

パルプンテ

古代にて…偉大な魔道士によって編み出された、究極の呪文。
自在に使いこなせようものなら…世界さえも手にすると云われる程の力を秘める。
だが、あまりに強大過ぎる力は…一つの存在にはあまりに大きく…制御は到底不可能である。

「パルプンテ」




「……。」
 頭に巡る記憶の…最後の呪文の言葉を聞いた時…ムーは我に返った。青い床の建物に…もう一人の自分…赤い髪の少女…メドラが立っていた。
「…邪魔。」
 その時…突然メドラはムーに向けて少女にはありえぬ形の鍛え抜かれた小さな手をかざした。
「イオナズン」
カッ…ドガァアアアアンッ!!!
 閃光が広がり…巨大な爆発がムーを中心として巻き起こった。
バシッ!!
「…!」
ドガァーンッ!!
「……っ!?」
 その時…突然一筋の光が爆発の中からメドラ目掛けて飛び、それに照らされた瞬間に同威力の爆発が巻き起こった。
「…マホカンタ…!!」
 身を守るようにマントで身を包みつつ…メドラは忌々しげにそう呟いていた。
「……。」
 その先には…派手なマントと奇天烈なデザインの帽子を被った自分と同じ位の背丈の旅人…ムーが悠々と構えている。
「…召喚」
 ムーは呟く様に小さくそう言葉を紡ぎ…目の前に手を差し出した。
ガシャッ
 すっかり馴染んだ感触と共に…理力の杖がムーの掌に収まった。そして…近くには魔法の盾が彼女を守るように浮かんでいる…。
「仕掛けてきたのはあなた。やられたら…百倍返し。」
 ムーは理力の杖を片手で振り回してメドラへと突きつけながら…

「たとえ…あなたが私でも。」

 少し間を置いた後…無表情で彼女を見つめてそう告げた。   
「……何の事?でも、どうでもいい。」
 しかし、その言葉の意味が分からなかったのか…メドラは僅かに眉をひそめたが…すぐにムーへと身構えた。
「………私に未来なんかいらない。…全てを壊して私も…」
「死ぬつもり?」
ドゴォッ!!!
 メドラの言葉を遮る様に、理力の杖が建物の床を破壊してその破片を撒き散らした。
「私はあなたに死なれると困る。…それがたとえ幻でも見ててすっきりしない。」
 漆黒な空間から始まり…その後は目の前の少女の生い立ちをずっと辿ってきた…。それが意味するものが何か…。
「……私はあなた…、それならあなたは何者?」
 どうやらメドラもようやく状況が読めたらしい…。初めてムーの顔をしっかりと見てそう尋ねた。

「ムー。…メドラとも呼ばれてる。」

 その問いかけに…ムーは迷う事無くそう答えた。
「メドラ?私もメドラ。…だったらあなたは私、…多分。…でも、どうでもいい。」
 一瞬納得した様に頷きながらも…すぐに切り替えて…両手を狙いがある様な独特の形に構えた。
「メラミ、ヒャダルコ」
 両手から炎と氷それぞれの上級呪文が発動し…メドラはそれを絡み合うようにしてムーに向けて放った。
「…!」
 二つの呪文が重なり合い…その反作用で生み出された力がムーへと迫った。
―…マホカンタじゃ防げない…!
 マホカンタは呪文を跳ね返す障壁を生み出す…。本来反射できる呪文の区別は無いはずなのだが…
ベキンッ!!
 マホカンタをすり抜けた干渉した二つの呪文からムーの身を咄嗟に守った魔法の盾が…その衝撃をまともに受けて思い切り拉げた。
―……強い…
 対極的なエネルギーを持つ炎と氷の激突による爆風が彼女が被っていた奇妙な形の帽子を吹き飛ばした。
「……バイキルト」
 しかし…ムー自身は動きを止めずに理力の杖を振り上げてメドラへと飛び掛っていた。
「……隙。」
 右手に黒い柄と鋭利で殺傷能力の高い刃を持つ短剣を逆手に握り…それをムーに向かって投げつけた。
ブツッ!!
 壊れかけた魔法の盾が反射的にその短剣を受けた…が、見事に盾に突き刺さっている。よほどの技量が無いと通常ならば弾かれている場面であるが…。
ドゴォッ!!ブォンッ!!
 そこにムーの理力の杖がまた床を叩き、その衝撃をものともせずに再度切り返してメドラへと一撃を掠めた。
「邪魔な盾…。」
 目の前を通る杖と言うには無骨な得物を紙一重で難なくかわしながら、メドラはムーを守る盾へと手をかざした。
「…彷徨いし力の欠片、我…其を求め此処に器を掲げん…イオ」
 詠唱がその口から紡がれると共に、掌から一筋の光が盾に刺さった短剣に当たった。
ドゥッ!!バギャッ!!
「!」
 短剣を中心として爆発が発生し、その力に耐え切れず…魔法の盾は粉々に砕け散った。
「…守りは無くなった。」
 ムーが爆風で撒き散らされた破片を受けて怯んだ所に…メドラはそう呟きながら盾に刺さっていた短剣を見えざる力で手繰り寄せ、その手に再び握った…
チャッ…!!
 同時にそれが四本に分かれて一斉にムーへと投げ放たれた。
「…っ!!スカラ!!」
 全てを避け切る事は出来ないと判断したのか…ムーは防御呪文で咄嗟に身を守った。
カンッ!カランッ!!
 短剣がスカラの障壁とぶつかり…乾いた音を立ててその場に落ちた。
ザッ!!
「!!」
 その時…今度はメドラ自らがムーの懐にもぐりこんできた。
「ルカニ」
 右手から守備力低下の呪文が放たれ…
「バイキルト」
 左手から攻撃力増強の呪文が発動し……
バキィンッ!!
「…う…あ…っ!!」
 その諸手で殴りつけた瞬間…スカラの守りが砕ける様な音と共に消滅し、ムーにバイキルトの補正を受けた拳が真正面からぶつかった。
「……弱い。…そんなつまらない未来なんか…やっぱりいらない。」
 倒れたムーを見下ろしながら…メドラは実につまらなそうにそう呟いた。
「…パルプンテ」
「……!」
 唱えられた呪文に…ムーは思わず目を見開いた。
―あの呪文を…!?





「パルプンテ」

「…しまった!!」
 心を失ったレフィルと剣を交えている間に呪文を完成されて…ホレスは目を見開いた。
―…く…!?今度はなんだ!?

「此処に誘うは神の始祖たる剛き者…汝が為、我時空の垣間より其の道を開かん!…出でよ!!深淵に眠りし轟きを招く者…虚界の魔神よ!!」

 メドラが祝詞を唱えると…不意に地面の一部が深い闇に覆われて歪み始めた。

ファーハッハッハッハッハッハ…

 その中から響き渡るのは…地鳴りの様に低い…何者かの笑い声のようだった…。
「……あれは!?」
 レフィルの吹雪の剣をドラゴンクロウで受け流しつつ、ホレスは地面であるはずの空間から現れてくる巨大な存在の大きさを…その耳で感じていた…。
―…人が出しうるものじゃない…!!
ドゴォッ!!!
 そこに現れたのは…凶暴な魔物でさえも歯牙にかけぬほどのプレッシャーを…世界樹並みの巨体から迸らせているまさしく魔神と呼ぶに相応しい存在の上半身だった。

ファッハッハッハッハッハ…クダケロ…ムシケラドモ

「「「「!!」」」」
ドゴォオオッ!!!
 魔神は戦いを続けるレフィルとホレスの二人にではなく、メドラへと駆け寄ろうとした残りの面々の前に立ちはだかり…その拳を振り下ろした。
「…ぬ……ガ…ァッ…!!」
 モーゲンはその衝撃をまともに受けて…鎧が拉げる様な音と共に…塵の様に宙を舞った。
「…お…お父さまぁーっ!!」
「…っ!?あぶねえ!!メリッサちゃん!!」
ドガァアアアアアッ!!!
「…どうわぁああっ!!!」
「きゃああああああっ!!」
 吹き飛ばされたモーゲンに駆け寄ろうとするも…反射的に庇ったマリウスもろとも…メリッサもまた魔神の拳によって吹き飛ばされ…意識を失った。
「…お…おぉう…!?よりによって…これを使うとは……!!」
 離れて様子を眺めていたニージスの顔は笑っていたが…声は僅かに震えている…。
―……ややや…これはマズイですな…。


「…く…!」
 現れた巨大な魔神から感じる禍々しい雰囲気に刹那の間圧倒されて…ホレスは舌打ちした。
―あれがオレ達の方に来たら…ひとたまりもない…!!
「イオラ」
 それが命取りでレフィルは詠唱の隙を与えられて…爆発の呪文を唱えた。
ドガァーンッ!!
「…!!」
―…イオラまで習得しているのか!!
 操られていても…使える呪文に大きな変化が起こる事は珍しい。メドラの支配下に置かれた時点で使えるようになったとも考えられるが…今まで使わなかった上級呪文をレフィル自身が既に習得しているとするのが妥当である…。それだけに…
―……やはり…この子は…!!
 出会った時とは比較にならぬ力を以って自分へと牙を剥いている…その強さは無理やり引き出されているとは言え…おそらくは世界に十分通用するだけの実力…
―…今のオレじゃあ相手にならない!!
 そして…少なくとも、少しでも気を抜こうものなら一介の冒険者に過ぎぬ程度のホレスならば本気で…それこそ殺す気で掛からねば一瞬で斬り捨てられてしまう程だった。
ビュッ!!
 イオラの呪文に続いて…レフィルは吹雪の剣を旋回させて吹雪を巻き起こした。
ビュオオオオオオオオオオッ!!!
「…くそ!」
 爆発によって弾き飛ばされて転がりながら、ホレスは左手に紅い魔力の玉を取って吹雪が運ぶ氷の刃へとかざし…火球を放った。
シュカカカカカッ!!!
「……がは……まずいな……」
 氷の刃によって串刺しにされる事は免れたものの…吹雪を真っ向から受けて彼は徐々に傷を深めていた…。
「……仕方が無い。」
―…或いはここでお前を裏切る事になるか……。
 ホレスは頭の横に付けてある黒い仮面に手をかけた。魂封じの呪いと代償に…装備者に守りの力を与える代物ではあるが…
―……だが、それ以外に術は無い。
「ライ…デイン!!」
 吹雪の剣を振りかざして呪文を唱えるレフィルを一度ちらりと見た後、彼は躊躇い無くその仮面で顔を覆った。
バシュウウウウッ!!!!ドゴォッ!!!
 その直後…雷雲の如き黒い流れと共に巻き起こった極太の紫電がホレスの体を打ち据えた。