深淵への道 第五話


「…行きましたか。ふむ…では残りの皆さんはどうします?」
 ホレスが地球のへそへと入った後、ニージスは皆にそう尋ねた。
「せやなぁ…どないする?」
「……わたしは…ここでホレスを待ちます。」
 レフィルは地球のへその見えない結界に触れながらそう言った。 
「おっ、さよか。…ふふふふふ、ええのぉ。」
「えっ…な…何が…?」
 レフィルはカリューが言いたい事がわからず、肩を竦めた。
「ま…上手い事やりや。わてらお邪魔虫は退散させてもらいますわ。ほな。」 
「わてら…って、おおぅっ!?私もで!?」
 興味深そうに辺りを見回していたニージスは、突然のカリューの言葉に肩を竦めた。
「当然やろ!あ…オードはんもやで。」
「…ふむぅ…成る程。わかりました。」
「ちょと待てぃっ!!マテルアは放っておくので?」
「スライムちゃんは計算外や。黙って来るんやな。」
 カリューはニージスの首根っこを掴んでズルズルと引きずり始めた。
「あらぁ〜……」
 おどけたようなニージスの叫びは次第に小さくなり、やがて神殿の外へと消えた。
「姉さま、あんなヤツの事なんか待つ事無いって。」
 残されたマテルアは、不機嫌そうな顔をしながらそう言った。
「…ううん。だってホレスは…わたしを助けてくれた人だから…。」
「けどさ、アイツ…姉さまを利用してるってハッキリ言ってたでしょ!?絶対いつか裏切るって!」
「大丈夫よ。」
 ホレスにいきり立つマテルアをレフィルはあやすように諌めた。
―だって…彼も…その事を気にしてるから……。
「…本当かなぁ?まあ姉さまが良いとと言うなら信じるけどさ。」
「…ありがとう。」
 
 そして…数日が経った時の事…
「…今日も帰ってこないな……。」  
 レフィルは鞘から抜いた吹雪の剣を収めながらそう呟いた。
「でも…大分扱えるようになったな…。」
「うん、凄いよ姉さま。」
 目の前に散らばる氷の破片を見て、マテルアは感心しながらレフィルを見た。
「マテルアのおかげだよ。」
「オイラの?うぅん、姉さまが頑張ったからだよ。大した事してないからさぁ。」
「そうかな…?でも、ありがとう。」
 レフィルはマテルアの顔近くまで屈み込み、その頭を撫でてやった。
「えへへ…。」
 マテルアはレフィルの手の中で大人しく動きを止めながら、笑い声をもらした。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!
「「!?」」
 しかし、突然地震が起こり…二人はその場から弾き出された。
「…な…何?」
「…おかしいな、この辺りで地震なんて…滅多に起こらないのに。」
 その様な中…レフィルは落ち着かない様子で地球のへその入り口を見た。
「ホレス…。」
「…うーん、大丈夫かな…アイツ。」
 尚も続く僅かな揺れの中、レフィルとマテルアは地下に居るであろうホレスの事が気にかかった。
「!」
 ふと、マテルアは洞窟の中から出てくる人影を見て…身を震わせた。
「…来た!」
「……ホレス!」
 二人は入り口に駆け寄り銀色の髪を持つその者を迎えた。…しかし!
「…!」
「んもぅ、やっぱり誰か居るとは思ってたけど…」
 そこに居たのは銀色の髪を持ち…黒いボディスーツに身を包んだ長身の女だった。
「あ…あなたは…」
 ポルトガで自分の愛する者の為にホレスとレフィルを抹殺しようとした女…。
「邪魔しないでくれる?」
 女は腰に差した短剣を手に取り、逆手に持って構えた。その刀身には…べっとりと血で染められていた。
「……!!」
 次の瞬間…マテルアは直後に起こった事に激しく驚いた。
「姉さま!!」
 レフィルはその短剣を目にした瞬間、もはや何も考えずに…腰に差した吹雪の剣を抜剣し、銀髪の女に斬りかかった!!