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新たなる旅路へ 第六話
「ぐ…は…!」
「ホレスさ……」
ビシッ!
「きゃあっ!?」
 脇腹にナイフを深々と突き刺されたホレスに駆け寄ろうとしたレフィルを、銀髪の女はあっさり鞭で叩き伏せた。
「…ぐ……ゴフッ…!…まだ終わらないぞ…!!」
 血反吐を吐きつつも…気迫を込めて、黒装束の篭手に付いているトゲ付きの手甲を構えた。
「まだやる気?…大人しくしてればラクに逝かせてあげるのに、馬鹿な子ね。」
 女は鎖鞭…チェーンクロスの先端の分銅を振り回した。
「おおおおおっ!!」
 正面きって戦っても勝ち目が無い事は分かっていたが、爆弾石や毒蛾の粉といった道具は既に使い尽くし、他に手は無かった。
ベシッ!
「がっ…!!」
「ホレスさん!!」
 横から分銅で叩かれ、ホレスの拳の軌道が曲がって女の体を大きく外れた。
「だから言ったのに。」
 女は鎖つきの分銅を振り回し続け、ホレスを執拗に弄り続けた。
「……!!」
 もはや抗う余力は残されておらず、ホレスはその場に膝をついた。
「ライデ…」
「おっと、今撃つとこの子にも当たるわよ?」
「…!!」
 そう言われて硬直したスキに、女は差し出された彼女の腕に鎖鞭を巻きつけて一気に手繰り寄せた。
「あっ…!」
 着慣れない服が災いして、レフィルは受身を取り損ねて地面に叩きつけられた。
「ううっ!!」
「そのまま…」
ガシッ…!
「!?」
 レフィルに止めを刺そうとした女の足を、ホレスは最後の力を振り絞って掴んだ。
「レフィルに……手を出すな……!!」
「ッ!!」
 女はホレスの腕に手にしたナイフを投げつけようとした。
「ギラ!!」
「くぅっ!?」
 レフィルの掌から放たれた高熱の線が女の右手のナイフに当たり、それを叩き落した。同時にレフィルはホレスを引いて女と距離を取った。
「あちちっ!…もう頭に来た!」
 ギラの呪文で軽く手傷を負って、憤った女はレフィルに向かって空いた手にもう一つのナイフを取り、斬りつけた。
キィン!
 しかし…その一閃はレフィルが右手に持つ物に阻まれていた。それは護身用に持っていた銀色に輝く聖なるナイフであった。
「…っ!?」
 一瞬顔をしかめながらも、女はすぐにナイフを切り返した。
パシッ
「えっ!?」
ぶぅんっ!!
「!!」
どすんっ!!
「がっ!!」
 当人達を含めて一体何が起こったのか分からなかった。ホレスは…目の前で起こった事…レフィルが女の腕を掴み、前に進む力を利用してそのまま投げ飛ばした一部始終を呆気に取られて見ていた。
「……。」
 レフィルは虚ろな目で襲撃者を見下ろして、掌をかざした。
「ライデイン……!」
ドゥッ!!!
 雷鳴が導く衝撃に、女は風に吹かれた塵の様に思い切り吹き飛ばされた。そして、それっきり動かなくなった。
「……レフィル…!?」

「ウワーハッハッハッハー!!聞きしに勝る盛況ぶり!!流石は世界屈指の交易としじゃのォッ!!」
 ムーとマリウスは、思わぬ相手に鉢合わせしてその場に立ち尽くしていた。
「……その武器は何?」
「…ビ…ビッグボウガン…ていうにも…何か危ない匂いがしねえか…?」
 目の前の褌が少し豪華になった程度の腰布を身につけている豪快な髭面の大男…バクサンが、右腕で担いでいる物から伝わる本能的な危機感に、マリウスは冷や汗を垂らした。
「ムムゥ!!お主等もこのバクサン玉に興味を抱いたかぁッ!!?」
―は…はいいっ!?
 余りに滑稽な名称と外見…そのくせ辺りに漂う嫌な予感にマリウスは心が乱れそうだった。
「そうかそうかァッ!!ウワーハッハッハッハー!!」
 武器を持つ手とは違う左手に抱えた巨大な…人間一人が丸々入れそうなサイズの大きな玉…バクサン印の強力花火が空高く投げ上げられた。
「げぇっ…アレを片手で…!!」
 常人には放り投げる事はおろか持ち上げる事もままならないそれを、天の遥か彼方まで飛ばしたバクサンの常人離れした腕力に二人共が絶句した。
―コイツ…本当に人間か…!?
―やっぱり妖怪…。
「ウワーハッハッハッハー!!お主もムー嬢共々とくと見るが良いぞォッ!!」
 そう言った瞬間、辺りが急に昼間の様に明るくなった。
「!!」
「……。」
ドッ…ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ…ドォーンッ!!
 花火の音とは微妙に異なった連続した爆音が鳴り響き、夜空の星さえ覆い隠さんばかりの無数の花火が弾けた。
「うげ…まじかよ…。」
「…悪夢。」
 狂喜に目を見開いた楽天親父の顔の形の花火が絶えず空に普く様を見て、マリウスはあまりの気色悪さに顔を青くし…ムーは帽子を取り出して目深に被った。その様な二人の傍で、多くの歓声が上がった。
「おおっ!!何だあの花火は!?」
「柄は何か変だけど…スゲェな…。」
「きゃ~!!」
「ぶわっはっはっはっはっ!!」
 祭りと酒ですっかり気分が高揚した地元の者達にとっては…どうやらあの程度の事は気にならないばかりか…場を盛り上げる肴にまでなってしまうようだ。
「ウワーハッハッハッハー!!見よォッ!!この歓声!!この絶景!!」
 大音声で高笑いを続けるバクサンに皆が注目した。
「いいぞ~!!フンドシオヤジ~!!」
「もっと打ち上げろー!!」
 野次と歓声の両方が入り混じり、この日最高の盛り上がりを見せた。
「ルーラ」
 ムーはマリウスの手を取り、移動呪文を唱えた。
「お…」
 次の瞬間…
ヒュー…コン…コン…コンコンコンココココココン…
 何かがバクサンの足元に落ちてきて…
ドッカーン!!!
「ブルアアアアァッ!!!」
 その何かが爆発し、バクサンはそれに巻き込まれて天高く巻き上げられた。
「おおおおっ!!!」
「すげぇー!!人間花火だぁ~!!」

「な…何だ…!?」
 マリウスは兜のバイザーの下の目を見開いて今の一部始終を見た。
「魔法の球。」
「……げ…何でそんな物騒なものがここにあるんだよ…?」
 博識のメリッサと知り合いであるだけに、魔法の球の噂は聞いていた。その爆発を受けて上へカチ上げられたバクサンがどうして生きているのかなどはもはやどうでも良くなった。
「バクサン玉の中にたくさん。」
「…は?」
 マリウスが気の抜けた返事をしたと同時に…
ドカーン!!ドカーン!!
「うげ…!!」
「二次被害…。」
 落ちてくる魔法の球は一つだけでは無かったようだ…
「おいおいおい!!どうす…」
すこーん!
「?」
 喚くマリウスの兜に何かが当たった…。
「それ、魔法の…」
 ムーが全てを語る前に…
ドッカーン!!
「ギャーッ!!!」
 それは派手な爆発を起こし、彼を地面にのめり込ませた。
「……メダカ砂漠カマボコ…」
 ムーはムーで…魔法の盾で爆発の衝撃から身を守り、目の前で繰り広げられる喜劇とも惨劇とも取れる滅茶苦茶な状況に意味不明な言動を繰り返していた。表情からは全く読み取れないが、彼女も彼女なりに驚くなり怯えるなりしているのかもしれない。
「…救いようが無い。」
「……。」
 魔法の球の直撃を受けたマリウスは地面に減り込んだままピクピクと痙攣している…。ムーは真空呪文バギマを唱えて降り注ぐ魔法の球を逸らしつつ、マリウスに向けてホイミを唱え続けながら、妖怪…爆裂楽天親父の脅威を心に刻み込んだ。