第四章 東にて
「地図を。」
ムーはホレスに手を差し出し、地図を要求した。付属していた羽ペンが現在位置、イシスを指し示す。
「ダーマはここだな。」
かなり北西の方に神殿のシンボルがあった。どうやらこれがダーマのようだ。
「ここからダーマへ行くにはこの山を超えなければならない。オレはそうしてここに来た。」
「山脈を越えて…?」
「ああ。ムオルからここまで来たんだ。」
「自殺行為。」
ムーの言うとおり、こうした山を越えるのは常人の足と装備ではまず不可能であった。険しい足場に気を取られ、空から襲い掛かる鳥獣系魔物の群れや、こうした山を住処とする屈強の山の魔族に襲われて、無事に帰った者はいない。
「…抜け道、無かったの?」
ムーはアッサラームの近くを指差して尋ねた。
「以前は開通していた跡があったが、今はそこを通る事が出来なくなっているんだ。」
「……塞がれたのかな?」
「…多分な。」
ホレスは別の本…地図帳の様な物を開いた。
「バーンの抜け穴…か。そこが通れれば話は早いのだがな。」
「行ってみましょう。」
レフィルは集中し、アッサラームの町を頭に思い浮かべた。
「ルーラ!!」
瞬間移動の呪文、ルーラが発動した。三人の体は空の果てへと消えていった。
「なんじゃ?旦那方は?」
ノルドはレフィルを見て、傍若無人に言い放った。
―旦那…?
どうやら彼はレフィルの事を男と間違えているようだ…。背の低いホビットだからこその間違いか…?
「あ…あの…、わたし達はダーマの神殿に行きたいのですが…。」
アッサラームの東、バーンの抜け穴の主、ノルドはどう見ても全く歓迎していない態度と口調でレフィル達を出迎えた。
「ダーマへ?…ふん、関係無いな。さっさと帰った帰った。」
「……。」
口調が気に入らなかったのか、ホレスは何も言わずにノルドからきびすを返し、立ち去ってしまった。
「ホレスさん!」
他の二人は慌てて彼を追いかけた。
美しく煌く夕方になる頃、レフィル達はアッサラームへ入った。宿を取り、荷物を置いて街中を出歩いた。
「無理か…。」
ホレスは少し残念そうにうつむいた。
「どうする?レフィル、ムー。」
「…誰かの紹介でもあれば……。」
「力ずくで。」
「「……。」」
あまりにアグレッシブ…否、過激な意見に、二人の思考は一瞬止まった。
「待て待て…本気か?」
そう言われると、ムーははっきりと頷いた。
「あのなぁ…」
ホレスは嘆息しムーに何かを話そうとした…。
「ウワーハッハッハッハーッ!!女だてらにええ根性しとるのおッ!!」
彼の話を遮るように、何者かの豪快な笑い声がどこからともなく聞こえてきた。
「…ッ!?」
ホレスは鼓膜が破れそうになるような感覚に襲われた。
「力ずくと来たかぁッ!!気に入ったわァッ!!」
三人は、大音声で言いたい放題の男の方に向き直った……。
「……ば…」
「…な…なんだ……!?」
「……妖怪……」
そこには、山のように大きな巨体の半裸の男が立っていた。ちょんまげ頭に豪快な髭、そして…爆弾岩のデザインが施された豪華な腰布をつけていた…。その趣味…容貌共に人間離れしている…。
―爆弾岩…?
レフィルにはどうもこの後何かが起こりそうな嫌な予感がしていた。
「あなたは…?」
レフィルはこの奇天烈な出で立ちをした男に尋ねた。
「ワシかぁッ!?バクサンじゃあッ!!お主らぁも名乗るが良いぞ!!ワーハッハッハッハーッ!!」
レフィル達は一瞬戸惑いながらも、それぞれ自分の名前をその男、バクサンに告げた。
「おおぉッ!ホレス坊にレフィル嬢、ムー嬢かぁッ!?ええ名前じゃのおっ!!ワーハッハッハーッ!!」
―坊…?…嬢…?
ドカーン!!
ドカーン!!
「「!!?」」
ホレスが考え終わる前に、辺りが突然大爆発を起こし始めた。レフィルとホレスは思わず驚いて飛び上がってしまった。
「…イオナズン……。」
ムーはその爆発の正体を言い当てた。
ドドドドドドドッ!!!
「またっ!?」
「ベギラゴン…。」
しゅごおおおっ!!
しゅごおおおおっ!!
「あちちちっ!!」
「きゃあっ!」
「……メラゾーマ…。」
無数の爆炎系の呪文による轟音がアッサラームの地に響いた。
「ちょ…ちょっと待て!!あんた…」
ホレスはその謎の破壊的行動を止めにかかった…が?
「ムムゥッ!!ホレス坊!!ワシの前に出るかぁッ!!」
バクサンは狂喜に満ちた笑顔を保ったままホレスを一喝した。
「……なっ!?」
「ぬっはあッ!!」
バクサンの巨大な掌が、ホレス目がけて勢い良く飛んだ。
バシィッ!!!
「が……ッ!!?」
バクサンの張り手をまともに受けて、ホレスは思いっきり吹き飛ばされた。そこに追い討ちの攻撃呪文が打ち込まれる…。
しゅごおおおおっ!!!
ドドドドドッ!!!
ドカーンッ!!
「ホ…ホレスさんっ!?」
目の前でああも呆気なくやられているホレスを助けようにも目の前の地獄絵さながらの光景に割って入ることが出来ず、女二人は成り行きを見守るしかなかった。
「ウワーハッハッハッハーッ!!どおしたぁッ!!」
「…く……な…なんて奴だ……」
ホレスは仕方なく背負っていた刃のブーメランを構えようとしたが、力が入らない。どうやら先程の一撃で、そこまでのダメージを受けてしまったようだ…。
「…っ」
―…一体何がしたいんだ…!?
ドカーンッ!!
「ぐぅッ!!」
イオナズンを転がって避けるが、爆風に巻き込まれ、レフィル達の方まで吹き飛ばされた。
―まずい…!今攻撃呪文を喰らったら…!
間違いなくレフィル達も巻き込まれてしまう。だが、動けない彼にはどうにも出来ない。
「に…逃げろ…ふ…二人共…!!」
「メガンテェッ!!!!」
ドッカーン!!!!!
「うおおっ!?」
どういうわけか、突然バクサンが爆発した。彼の体は空高く舞い上がって…やがて、落ちてきた。
ドゴオッ!!
落ちてきた先の地面は重みに耐え切れず沈んでしまった。
「………。」
先程の元気は何処へやら、バクサンは何も言わなかった。
「ホレスさん…だ…大丈夫…ですか?」
「正直…そういい難いな…。」
ホレス達はとりあえず、その場を離れた。
「メガンテを使ってどうして…」
普通メガンテは、己の全てを
爆発力に変換し、使用者は跡形も無く消し飛んでしまうはずであるが…。
「二度と会わないことを願うばかりだ…。」
レフィルの肩を借りながら、ホレスは憎憎しげに呟いた
18…17…16…
9…8…7…
2…1…
ドカーン!!
「ウワーハッハッハッハー!!」