王墓の呪い 第五話

「…この模様は…。」
 上に行こうとしたホレス達の前に、石碑に刻まれた物と同じ扉が立ちはだかっていた。
「多いね…。この模様…。」
「ああ…。本日4つ目だな。」
 扉を開こうとしたが、びくともしない。鍵穴があったが、レフィルの持つ盗賊の鍵でも開かなかった。
「開かない…。特別な鍵で封印されているみたい…。」
「…そのようだな、仕方ない…ここは諦めて…」
「ルカニ」
「「え?」」
 突然ムーが呪文を唱えた。近くの壁に向かって。
「バイキルト」
 今度は自分にバイキルトを唱え、杖で壁を突いた。
ガラガラガラッ!!
 壁は呆気なく崩れ去った。周りが崩れる事は無く、小さな崩壊音が僅かに響いた。
「ム…ムー…?」
「また…か。」
「?」
 王家の墓を壊すような真似を躊躇いなく行った当の本人は首を傾げていた。
―しかし…好きだな…この組み合わせ。
 魔法使いらしからぬ、ムーの挙動にホレスは興味を抱いた。
―禁…って……まさか……?
 レフィルはムーがダーマから追放されたのも何処か頷けるような気がした。

 壊した壁から奥に進むと、そこには無数の宝箱と、幾つかの棺桶が安置されていた。宝箱の多くは既に開いている…。
「…この部屋には既に誰か入り込んでいるようだな。」
「でも…ひどい……。」
 辺りには腐敗臭が漂い、腐肉や骨が散らばっている…。
「運の悪い奴等はここで果てたのか…。」
 遺留品らしき武器や道具を見て、ホレスは遠い目をして呟いた。中にはまだ真新しい物もあった。
「…思ったより簡単に入れるようだな。」
 死体の数は四体や五体では無く、実にもっと多くの者達が犠牲になっているようだ。
『ダレダ……』
「「?」」
「!」
 何かの声が聞こえる感覚がして、ホレスとムーは辺りを見回した。一方、レフィルは大きく目を見開き固まってしまった。
「一体何だ?…な…レフィル…?」
 ただならぬレフィルの様子に気付き、ホレスは彼女の肩を揺すった。
「来ます…!!敵が…!!」
「「!」」
 三人はそれぞれの武器を構えて身構えた。
『オウサマノハカヲ…アラスモノハ……ダレダ…!!』
『ワレラノネムリヲサマタゲルモノハ……ダレダ……!!』
 亡者達の声があちこちから聞こえてくる。
「ムー。」
 ムーは律儀に亡者達に自分の名を告げた。
「お前っ!?答えている場合か!?」
「来ます!…ニフラム!!」
 包帯に身を包んだ亡者にレフィルはニフラムを唱えた。聖なる光が彼らの体を消滅させていく…。
「ベギラマ」
 ムーはベギラマを唱えた。炎の壁が亡者達の体を捕らえて彼らを塵と化した。
「ちっ!!」
 ホレスは背中に担いだ刃のブーメランを投げて、向かい来る亡者達を一気になぎ払った。
「…!」
 亡者達の一人が手招きをした。
『…オ…オレハ……オオオ…シ…シニタカネェヨオオオ……』
 明らかに他の亡者達とは意思が違う亡者が彼等の屍を寄り代に立ち上がった。
「…こ…こんな事……!」
 レフィルは思わず泣きそうになった。無理矢理蘇生させられ、亡者の仲間入りをさせられてしまった冒険者の腐った死体を見て、激しく動揺している。
「…ベギラマ」
 ムーは僅かに怒りに声を震わせような、誰にも気付かぬ程度の抑揚の声でベギラマを詠唱した。並のベギラマを上回る炎の壁が亡者達を包み込んだ。炎諸共…全てが消えた。
「ま…待て!!」
 ホレスは思わず怒鳴ってしまった。
「ホ…ホレスさん?」
「あ。」
 レフィルはびくっと肩を竦ませ、ムーは力の無いうめきをもらしただけだった。
「全部燃やし尽くしたら探索の意味が無いだろ!?」
 ホレスに怒鳴られて、ムーは気まずそうに頬をかいた。
「ホレスさん…あの…。」
「仕方ない…。更に奥に進むぞ…。」

「…ここが、ピラミッドの頂上か……。」
 ホレスはさわやかな外の空気に目を細めた。湿りきった中の空気と打って変わって今度は乾燥した物だったが、どこか気持ちよく感じる。
「朝…ですね。」
「…。」
 レフィルは遥か東から上る太陽を見つめ、ムーは積み上げられた石の一つに腰掛けて、三角帽子を脱いだ。赤い髪が朝の風に僅かに揺れる。
「太陽への道…とはこれのことだったのか…?」
 日の出の光を眩しく感じながらホレスは呟いた。
「え…?ちがうんじゃ…?」
 レフィルは石碑の内容を記したメモを取り出した。
「“ここ“って書いてありましたけど…、あの後何も調べないで帰ってしまいましたよね…?」
「…ああ、やはりあそこには…まだ何かあるのか…?」
「魔法の鍵…。」
 ムーはぽつりと呟いた。