王墓の呪い 第三話
昼になってはラナルータを繰り返しておよそ六回、日にして三日間(六日間)の旅路の末、レフィル達はイシスに着いた。
「お城に向かいましょう。」
レフィル達は、イシスの宮殿へ向かった。
「イシスへようこそ、勇者レフィル様。」
階段を上り謁見の間に入ると、イシスの女王が自ら出迎えた。レフィルはまだ勇者として名をあげていないのに様付けで呼ばれるのにはどうも不釣合いな気がした。
「…ポルトガへの通行証…魔法の鍵をいただきたい。」
ホレスは用件を話した。イシスでしか作れない魔法の鍵…。それを求めてここを訪れる旅人も…王墓の財宝目当ての冒険者程では無くとも数多く訪れていた。
「わかりました。では…。」
女王が片手を挙げると、女中が三人に近づいてきた。
「この羊皮紙にあなた方の血判を…。」
―…契約書か?
ホレスは首を傾げた。ならば真っ先に名前を書けと言わないか?
「…必要な作業なら甘んじて受けるが…?」
彼がそう言うと、女中はこう返した。
「はい。魔法の鍵作成には必要です。」
「分かった。」
ホレスは女中から羊皮紙を受け取ると、ナイフで親指の先を少し触った。ささやかな痛みが起こったが、気にせず羊皮紙に血判を押した。レフィルもそれに習い、腰に差した銀製のナイフを使って同様にした。
「では、確かに三人分の血判を頂きました。」
女中は恭しい動作で羊皮紙を受け取ると、下の階へと降りていった。
「鍵の作成にはまだしばらくかかることでしょう。それまでここイシスの町でごくつろぎください。」
「三日か…。」
レフィル達は宿の一室に集まり、それぞれ休んでいた。
「…退屈。」
「そうか?」
ムーは机に両肘を乗せて頬杖をついている一方で、ホレスは文献を見ていた。レフィルはすっかり治った左手でカップを掴み、中身の紅茶を飲んでいる。
「それは何?」
彼の見ている本に興味を示したのか、ムーはホレスに近づいた。
「ピラミッドの文献だ。」
ピラミッド…イシス初代国王のファラオ王の墓である。従者達もまたこの墓の中に葬られ…多くの者達が安らかな眠りについている…。そういった事が書かれている。
「しかし、最近ではその昔の者のミイラが蘇って、亡者と化して侵入者もその仲間に引き入れてしまうとかな。」
「……悲しい話ですね…。」
「…多くの宝は墓荒らし達や、王家の専属の学者達によって発掘され尽くしたが、黄金の爪を持って帰れた者はいないらしい。」
「「黄金の爪?」」
女二人は彼の言う黄金の爪という言葉に振り向いた。
「かつてのイシスの至宝らしい。一体どのような物なのか興味が尽きないがな。」
「…だったら、一緒に探しましょう。」
「同感。」
「だが…、ピラミッドには罠が沢山仕掛けられていると聞くな。その黄金の爪という物にも何かしらのな…。」
伝説の秘宝と言えど…物であるならば手に取るのは簡単であるはずである。その後どうなるのかは分からないにしても…。
―まさか運ぶのに苦労してその末に死んだのだろうか?
冗談のつもりでホレスはそう考えた。とてつもなく巨大な物であればそれも有り得るが高が手甲一つ運ぶのに手間が掛かる物だろうか…?
「…。」
いつの間にか、ムーはホレスの読んでいた本を物色していた。何故か開かずに…表の部分を興味深そうに眺めていた。
「?」
翌朝…レフィル達はイシスの町を歩いていた。
「行くならば支度は入念に整えておこう。」
「はい。」
三人はイシスにある武具店や道具屋に立ち寄った。
「ブーメラン…というより円月刀か。」
傷だらけで相当使い込まれたやや大きめの反り返った刃付きのブーメランを見て、ホレスは呟いた。
「あっ、それはなかなか売れないんです…。なんせ皆使えないみたいなので…。」
よく見ると所々に傷がある。誰かが試しに使ってみたのだろうか。
「これは何ゴールドだ?」
「1500ゴールドと言いたい所ですが…そこをまけて1125ゴールドでいかがでしょう?」
「いいだろう。」
代金を払い、ホレスはブーメランを受け取った。そしておもむろに空に投げ上げた。
ドスッ!
ブーメランは壁に突き刺さった。
「……なるほどな。」
「あ…、返品…ですか?」
「いや、…思っていたより悪くない武器だ。あと…これも買っていく。」
ホレスは旅の必需品を次々と店主の下へ持っていった。
「ありがとうございました。」
日も暮れる頃、レフィル達は宿の前で落ち合った。
「お前達はどうだ?何か良い物が見つかったか?」
「いえ…。…あ、それは?」
レフィルはホレスが背中に担いでいるものを見て目を丸くした。
「戻ってこないブーメラン…らしい。」
「え…?」
ホレスの発言にレフィルは固まった。そんな物をどうして買ったのかと言いたげな顔だ。
「…いや、コツは掴んだ。」
ホレスは再びブーメランを投げ上げた。回転しつつ空気を裂きながら、最後に彼の手元に戻ってきた。
「ホントに戻るんだ…。」
レフィルはどこか興味深そうにブーメランを見つめていた。
「でも、ボロボロ。」
ムーはブーメランのところどころに着いている傷と、ホレスの頬の十字傷と鼻の上を逆袈裟に一文字に裂かれた傷を見て、そう呟いた。ホレスは虚をつかれたように立ち止まったが、すぐに二人をリードした。
「よし、行くぞ。」
二人を連れて、夕暮れの砂漠へと向かった。
―まぁいずれ話しても良いのだろうがな。