出会い 第三話
「よくぞ来た!そなたの父、オルテガの名は良く聞いておるぞ!」
「…はい。」
 まだ謁見に慣れていないのか、レフィルは気の利いた言葉を返せなかった。
「聞くところによると、父の跡をつぎ…魔王バラモスを倒すとの事じゃったな。うむ、天晴れじゃ。流石は勇者の息子といったところじゃな。」
―え…?わ…わたしは…
 王の失言に、レフィルは少しばかり動揺した。まさか王の耳にまでそう届くとは思っていなかったのである。
「…う〜む、個人的な頼みになるのじゃが…」
 王は何かを言いかけた。そこに大臣が横槍を入れた。
「何をおっしゃいますか!!!」
「…むっ…!?な…なんじゃ…!?」
 少しうろたえた様子で王は大臣の方に向き直った。
「これはロマリア王国に関わる重大なことですぞ!!王様のお宝が、賊ごときに奪われるとなっては!」
「……もういいではないか、大臣。盗られたのはもう不要の物。ましてカンダタの居場所が掴めたところで、これ以上怪我人を出してはそれこそ国権に関わるではないか。」
「陛下ッ!!!」
 大臣は王の耳元で大声で怒鳴った。王は耳を塞いで顔を逸らし、コホンと頷くと、再びレフィルに向き直った。
「え〜…、今の通りじゃ。カンダタめから奪われた金の冠を取り戻してはくれんかのう?」
「その時こそ、そなたを勇者として認めようぞ!!」
「…ぬ?レフィルは既にアリアハンで勇者として公認されたのではないか?大臣。」
「ならばこの国でもその称号に見事報いてみせてくれるでしょう、レフィル殿。」
 完全に主導権を大臣に握られている王を見て、レフィルはどう答えたら良いものか分からなかった。
「…はい。やってみます。」
 正直気が進まなかったが…レフィルは合意した。王は後味の悪そうな顔で頷いた。
「そうか…。…じゃが、カンダタは強い。負傷したとはいえ、そなたが一人で誘いの洞窟を抜けてきたとの話は聞いておる。その腕前は申し分ないと思えるが…今度ばかりはのぉ。」
「…はい。」
「うむ…。じゃが、以前騎士団を差し向けたことがあったのじゃ。…結果は如何な物と思う?」
 レフィルは答えが分かっていても…口に出せなかった。
「おお、すまんの。まぁそう言われれば自ずと分かるか。ぜんめつじゃよ。」
―…ぜ…ぜんめつ…?
 王の言葉に大臣が勝手に付け足した。
「しかも、死者は無しと…侮辱しておるのか!!あやつらは!!」
 確かにそれは、屈辱中の屈辱だろう。国の為に命を賭して仕える王宮騎士が、賊に情けで命を助けられて帰されるとは…。
「じゃ〜から早いところ止めにしようと申しておるのに。」
「や…!!王様!!!」
 王は、また大臣に怒鳴られた。
「…まぁ、そういう訳じゃ。備えは十分にしておくと良いぞ。」
「はぁ…。」
 レフィルはなんだかこの王が頼りない様に見えるのは、大臣が寄るところの方が大きいようにも思えてきた。
―…わたしと似てると思うのは…なんで…?
「おお…備えといえば…、尖塔の牢獄にカンダタの子分が一人おったはずじゃな。」
「はっ、三日後には処刑しますゆえ…。」
「そこまでせんとも良かろうに…。まぁ…その者に事情でも聞いてみると良いじゃろう。」
「はい。」
「うむ、他に何かないかの?……そうか。では、皆下がってよいぞ。」
 王がそう告げると、レフィルは謁見の間を去って行った。
「…もっとも、カンダタの縁者ならば…とっくに助けが来てても良いはずなんじゃが…?」
 皆が去ったあとに王はそう呟いた。
「あ奴は面倒見が良いからのぅ、ここまで放って置くなんぞらしくないぞ?」

 城の西の尖塔の牢獄で、銀髪の青年は静かに佇んでいた。
―…オレは無実だ…と言っても誰も信じないだろうな。…そもそも、あんな騒ぎを起こしたんだからな…。
 備え付けてあった水道管の蛇口を捻り…コップを出して水を飲んだ。
―…大したもんだよ、牢屋にまでこんな金を使えるなんてな。
 如何にロマリアが恵まれているのか…。そのくせ人々の心には貧しさが溢れている…。
―……元凶は王か。…いや、そうとも限らないな…。
 もし、このまま処刑されたら誰を恨んでやろうか…などと下らない考えを巡らせ、青年は嘆息した。
「ここです、レフィル殿。ここにいるのが盗賊ホレスです。」
 兵士の声が階段から聞こえてくる。
―…レフィル…?……勇者…か。
 青年…盗賊ホレスは今更自分に用がある人間など誰がいる…と思いながら、その来客の方を見た。
「お前…!?」
 目の前にいる旅人には見覚えがあった。あの時左手を中心に大火傷を負いつつも、戦っている自分達を止めたその人である。
「あっ……!!」
 来客…おそらくは勇者レフィルもまた、おぼろげながら…銀髪の青年に、何かを感じたようだ。兵士…城門で殺しあった者が高慢に言い放った。
「この方はアリアハンの勇者レフィル殿だ。カンダタ討伐に伴い、貴様に訊きたい事があるそうだ。」
―勇者…だったのか…?
 勇者と言うにはどう見ても頼りない。勇者オルテガは、目にした事は無かったが、うわさでは…決して大男という訳では無いが、やはりがっしりとした体躯の持ち主であったと聞く。
「…あんた、本当に勇者なのか…?」
「何を言うか!この出で立ち、アリアハンの服装であろう!」
「お前には聞いていない。…そもそも話があるのは"勇者"の方では無かったのか?」
 ホレスは冷ややかに兵士に向けて告げた。兵士は少しいきり立ったのか、凄まじい形相で睨みつけた。
「あの…。」
 レフィルは兵士に言い難そうに告げた。
「話をするだけですので…居辛いなら…席を外して頂けますか?」
「……勇者様がそう仰るなら…。」
 そう告げると兵士は階段を降りていった。
「……。」
 ホレスは勇者に向き直った。
「生きていたんだな…、お前。…レフィルって言ったか。」
「…え……、あ……その……。」
 レフィルは発言の意図が分からず言葉に詰まった。
―…ん?
 勇者のうめき声からホレスはようやく感づいた。
―……こいつ…女か?
 旅してきた各地の情報では…オルテガには子供がいたと聞いていたが…息子という話が出回っていたせいと、レフィルが着ている皮鎧のせいで、ホレスは彼女のことを男と間違えかけた。