第二章 出会い
「う…く……うぅ…。」
 血塗られた剣を右手で杖のように地面に突き立てながら、レフィルはただ前へ進んでいた…。
―……痛い……苦しい……でも……
 意識が朦朧としていて、さっき何があったのかすら覚えていない。気がついたらこうなっていた。一部が炭化し、左腕が動かない。ホイミを唱えたが、今度ばかりは体が受け付けなかった。
「…っ!!」
 過度の疲労と痛みで、頭が激しく痛む…。その不安定な状態の中で…レフィルは目の前に何かがあるのを感じ取り、気力を振り絞って前を見た。
「…?」
 青い色の渦巻き…どうやらこれが"旅の扉"らしい。

―…たし…か…ロマリ…ア…に…つづ…いて……。
 体中が熱くなって、まともに考えることも出来なかった。
「……せ!!」
 不意に怒声らしき声が遠くから頭に響いた…。
―……だ…れ?
 レフィルはそれを耳障りにさえ思った。しかし、その声で意識が引き戻されたのか、視界がはっきりと開いてくる……。
「!!」
 それは、二人の男がそれぞれの武器を構えて、今まさに相手に突き出すところだった。
「ま…待って!!」
 反射的にレフィルは叫んでいた。…しかし、これ以上は何も言わないまま、彼女は意識を手放した。

「おい!!」
 銀髪の青年は、自分達に叫んだ後力尽きたボロボロの旅人に向き直っていた。
―……ひどいケガだ…。早く手を打たないと死んでしまうぞ…!!
 煤だらけで顔は良く分からないが、見た感じではどう見ても戦士の体では無かった。一部が丸々焼け焦げた皮鎧と、ボロボロに縮れたマントに身を包んだ小柄な旅人が、一人でこの辺りを旅しているとは考えにくい。しかし、剣にべっとりついた赤い血の跡は、魔物とでも刺し違えた時に出来たものだろうか…?
「どけっ!!」
「ぐはっ!!」
 青年の蹴りが兵士の体を数メートル吹き飛ばした。そして彼はすぐにその満身創痍の旅人の下に駆け寄った。
「ぐっ…!!貴様……何を…!…まさか仲間がいたとはな…。」
「お前には関係無い。見ず知らずの者であれ、オレは瀕死の人間を前に背を向ける事は出来るほど非情になったつもりはない。」
「…はっ!賊ごときが…!!綺麗事を!!」
「何とでも言え。……まだ息はあるが…」
 周りに群がる群衆が見守る中、青年は怪我の処置を始めた。慣れた手つきで着々と応急処置をこなしていく…。
「手は尽くしたが……駄目だ、このままでは…、おい!!誰かこいつを教会まで連れて行ってくれ!!」
 青年は群集に向かって叫ぶと、神父らしき男が数人の修道士を伴って彼に近寄ってきた。青年は旅人の身を彼らに預けた。
「あ…後はお任せを。」
 神父は先ほどまで兵士と戦っていた青年に、少々の恐怖を感じていたのか、少し声が震えていた。
「…頼んだぞ。オレはもう行かねば…」
「そこまでだ!!」
 青年が立ち去ろうとしたとき、先ほどの兵士が叫んだ。
「くっ…そぉっ!!」
 青年はいつの間にか集まってきた騎士団を見て、肩を震わせた。
「おとなしくしろ!!」
「邪魔をするな!」
 蟷螂の鎌とでも言うべきか、青年は堅牢な鎧を身に纏った騎士達にナイフ一本で立ち向かっていった。