誘いの洞窟 第四話
「……ここは?」
 気がついたら…レフィルはベッドの上に横たわっていた。
 あの時…子供を庇ってキラーエイプに捕まってしまい、力で振りほどくことは敵わなかったので、火炎呪文"メラ"を放ったのだ。激痛にあおられ、魔物はその手を自分ごと地面に叩きつけて逃げて行ったところまでは意識があった。
―…生きてる?
 レフィルは起き上がろうとしたが、急にがくんときて…そのままベッドの上に倒れた。
「……。」
―……あれ?…おかしいな……。
 何も感じられない…。レフィルの視界が再び闇に閉ざされて行った…。

―おお、レフィルよ……でしまうとは不甲斐無い…。
……王様?
―おお…なんて事でしょう!!…私のかわいいレフィルが…!!で…でも、まだよ…!あの人の様に火山から落ちて灰になったわけではないわ!!…ああ…、神様……どうかこの子の命を……今一度…!!
…え?…かあ…さ…ん…?…これって……。
―あ〜あ…、だからやめておけって言ったのによ…。
―……レフィルなんかに世界が救えるわけね〜じゃん。もっと楽に生きろよ。
…みんな……?
―絶対レフィルは勇者なんかより…、いい……さんになれると思うんだけどな…。 ……ありがとう。でも…。
―はぁ!?使命放り出してまでそんな事できるか!?そりゃずりぃってもんだぜ。なぁ、レフィル!!お前が…だからって、甘ったれた事なんかねぇよな?
……え…?…その……
―ちょっと!何よそれ!!あんたまでんな事言うわけ!?これじゃあレフィルがあまりにも可哀想じゃない!!
……。
―もういいよ…皆。…これは自分自身が向き合わなきゃならない問題だから…。
―レフィル……。
……ごめん…。

「うわっ!!」
「!?」
 誰かの悲鳴が聞こえてきて、レフィルは再び意識を取り戻した。
「いっ…痛っ……。」
 感覚が戻ってきたのか…レフィルは体中に激痛が走るのを感じた。
「だ…大丈夫!?」
 ここでようやく相手の存在を認識した。見覚えがあるような無いような顔の少年だった。
「…平気……あ…痛っ…!!」
「動かしちゃダメって神父さまが言ってたよ。」
 少年は痛みに喘ぐレフィルにあどけない瞳をのぞかせながら告げた。
「…ぼくを助けてもらったのに死んじゃうなんてやだからね…。」
 不安定な思考の中…ここでようやくこの少年があの時の…泣き声の主と理解した。
「あ、そうだ。ぼくはシン。旅人さん、名前は?」
「レフィル。」
 シンはレフィルの名前を聞いて、飛び上がった。
「ええっ!!オルテガさまの子供のレフィルさま!?」
「…うん。」
「知らなかった〜。レフィルさまって…女の人だったんだ。」
「…そう。」
 シンはさらにまじまじとレフィルの事を見つめた。緩やかな寝巻きに包まれたその体は、確かに女性のものであった。
―…勇者って…やっぱり…。
 勇者は男であるという印象は、どうしても拭い切れない物であることは分かりきっていたが…レフィルは今もまた複雑な気持ちになった。
「女の人なのに魔物退治の旅に出るなんて偉いな〜。」
「…。」
「レフィルさま!!ぼくはパパとママを殺した魔物達を絶対に許さない!!だから、魔物をいっぱいやっつけて!!じゃないと…」
 シンはあどけない瞳を怒りで光らせ…強い視線でレフィルの目を見た。
「シンくん……。」
 幼くして両親をあんな惨たらしく殺された少年の打ちひしがれる様を見て、レフィルは哀れに思った。

―…まだ痛むな…。
 シンが去ったあとも、レフィルは痛みにうめいていた。
「…回復呪文、ホイミ。」
 レフィルの掌から出た温かい水色の光が彼女自身を包み込んだ。
「……ふぅ。」
 その後すぐに、レフィルは眠りについた。ホイミの回復はあくまで本人の肉体の持つ自然治癒力に依存する。少しでも傷の治りを早めるべく、レフィルは眠りについた。