誘いの洞窟 第三話
「…。」
 結局アリアハンで仲間を見つける事は敵わず、レフィルは一人で旅立った。
―レーベの方もあまりあてにならない…って書いてあるな。
 ふぅ…とため息をつきながら、レフィルは草原を歩いていた。
「…スライムだ。」
 目の前に一匹の魔物が立ち塞がった。青い色をしたゼリー状のしずく型の最下級に分類される魔物…スライムだった。
「本物を見るのは久しぶりだな…。」
 レフィルは耳元に少し触れた。耳についたスライムピアスが揺れた。そうしているうちに…仲間がぞろぞろと集まってきた。スライムの大群がレフィルを囲んだ。
「通して…。」
 敵意の無い声でレフィルはスライム達に告げた。しかし、そのうちの一匹が体当たり攻撃を敢行した。
ボヨンッ!
「……。」
 しかし、レフィルの皮鎧が衝撃を緩和し、ダメージはほとんど無かった。
「…通して。」
 先ほどと変わらぬ仕草と抑揚でレフィルはもう一度告げた。今度はスライム達の動きに動揺が見えた。少しずつ離れて行く…。そこをレフィルが一歩踏み出すと、何匹かは戸惑いのあまり固まって動けなくなり、また何匹かは「ぴきぃーっ!!」と鳴きながら逃げ去ってしまった。
「……。」
 何も告げずに、レフィルは前に進んだ。

―もうすぐレーベか…。
 日も暮れる頃遠くからでも白い煙が上がるのが見えた。おそらくは晩御飯の支度でもしているのだろうと思いながらレフィルは道なりに歩き続けた。
―でも…夜も近いから急がないと…。
 レフィルは少し足を速めようとした。
「うえーん!!パパァーーッ!!ママァーー!!」
 遠くからの悲鳴を感じ取り、レフィルはその方向へ転換し、全力で走った。

「これは……!!」
 目の前に立つのは紫色の体毛を持つ、巨大な類人猿だった。手と口元が血で赤く染まっていた。
「キラーエイプ…!!」
 その魔物の名を言いつつ、レフィルは周りの様子を見た。血だまりといくつかの骨が散らばっている…。その近くで泣き声の主らしき子供姿が見えた。
「何してる!早く逃げ…」
うがあああああぁっ!!!
「…!!!」
 魔物の咆哮をまともに聞き、レフィルは一瞬体がすくんでしまった。
「…はぁ…はぁっ…」
 初めて見る強大な魔物のプレッシャーに、レフィルは気がおかしくなりそうだった。魔物はレフィルの方と、子供の方を交互に見た。
―…剣が……抜けない…!!
 必死に戦おうと心が鼓舞しても、体が言うことを聞いてくれない。
ごぅあああああっ!!!
「!」
 キラーエイプは子供に向かって血塗られた手を伸ばし始めた。
「…あ……!!」