誘いの洞窟 第二話
「よくぞ来た!アリアハンの勇敢なる若者よ!!」
 気がつくと体には皮の鎧を身につけ、背中には長剣を背負い、紫のマントを羽織った状態で、レフィルは王の前に立っていた。
「そなたの父…オルテガの訃法より四年が経ったな。あの時、そなたの母はこう言った。レフィルが父の遺志を次ぎ魔王バラモスを倒すと…。」
「…。」
―…そうだ。あの時母さんは…。
「レフィルよ、その志…まことであろうな?」
「…はい。」
レフィルは小さく呟くように答えた。それは…緊張しているとしか見られていなかったが、レフィルの胸中では複雑な気持ちが渦巻いていた。
「よろしい。敵は魔王バラモスじゃ!!見事彼の者を打ち滅ぼし、世界の希望となってみせよ!!」
 レフィルの葛藤を知らずに、王の言葉に兵士達は歓声をあげた。
―…断れないよね……。父さんの子として…。
 皆の熱い視線を一身に浴びながら…レフィルは小さくため息をついた。
「ただし、そなた一人ではオルテガの二の舞となりかねん。仲間を集うのだ。まずはルイーダの酒場に足を運ぶが良い。そこで共に旅する仲間を探すのだ。これはそのための金じゃ」
王は、兵に金貨のずっしり入った袋をレフィルへ渡させた。
―…お金なんて、こんなにあっても邪魔なだけなのに…。

―武器と防具はこれでいいけど…冒険に必要な道具はもう少し買っておこうかな…。
 ルイーダの酒場による途中、レフィルは道具屋へ立ち寄った。
「おお、レフィルさん…ついに旅立ちですね。まだ何か買うものが…?」
 レフィルは店内の品を物色して、いくつかの品を店主に見せた。
「それなら計500ゴールドになりますね。」
 言われた額だけ払い、買った品々をを鞄の中にしまった。
「ああ…そうそう。これを忘れてました。」
「…それは?」
 店主が持ってきたのは銀色に輝く輪っかだった。
「幸運のお守り代わりらしいですよ。今までかなりご利用いただいたお礼にと思いまして。」
 彼は、レフィルの頭にそっとそれを被せた。額のエメラルドが静かな輝きをたたえている。
「いやいや…うちの娘もあなたには随分と世話になったようで…、っとご出発の邪魔をするのは無粋でしたな。」
「…いえ。」
「またお目にかかれる日を楽しみにしてますよ。」
 レフィルは軽く頭を下げると、店を後にした。

「あら、レフィル。やっときたのね。まちくたびれたわ…。」
 青い髪の女性がカウンター越しにレフィルに声をかけた。
「ルイーダさん、これは一体…?」
レフィルは辺りを見回しながらルイーダに尋ねた。
「それがねぇ…」
 ルイーダの話によると、アリアハン大陸の近海では特に海の魔物が強いため、船を出すことができないという。そこで、別の方法で脱出しようと多くの者達が東端の"誘いの洞窟"へと旅立った。その奥にある空間移動のゲート"旅の扉"で新天地へ向かおうとした。しかし…いつからかそれに続く道が瓦礫の山で塞がれているというのだ。
「それで、アレを吹き飛ばすための強烈な何かを作ろうとしたのよ。」
 それはとても強力な爆弾で、"魔法の球"と呼ばれるものだった。材料にとてつもなく危険な魔物…"爆弾岩"…のかけら爆弾石を使うらしく、作成過程で失敗…最悪命を落とすこともあったようだ。
「ば…?ばくだん…」
 爆弾岩の悪名は、もっとも有名な可愛らしい魔物…スライム並の知名度があった。非常におとなしい魔物らしいが…あまり刺激を与えると、"メガンテ"と唱えて周囲を巻き込み大爆発を起こすので、危険度最悪の要注意魔物にも指定されている。
「…どいつもこいつもわれ先にって作り出してこのザマだよ。」
―…自分で作らなきゃならなくなったらどうしよう…。
レフィルは空っぽの酒場を眺めながら、そんな事を考えていた。
「…代わりと言ってはなんだけど…これ持っていきなさい。」
 レフィルは、ルイーダから地図と手帳を受け取った。手帳をちらりと見ると、人名とそのプロフィールらしき情報が書いてあった。
「それは冒険者のリストよ。新しい土地に行くたびに確認しときなさい。きっと力になってくれる人がいるわ。」
 レフィルはルイーダにぺこりと頭を下げると、空っぽの酒場を後にした。