第一章 誘いの洞窟
「起きなさい…私のかわいいレフィルや…。」
「……Zzzz。」
 母が呼びかけても、子供は布団から一歩も出ようとはしなかった。どうやら深い眠りについているようだ。
「もう…こんな大切な日ぐらい早起きしてもいいのに…。」
 母は嘆息しながら、カーテンを開けた。更に窓を開けると早朝の冷たい風が、レフィルの顔に吹きつけた。
「…あら、いけない。これだけ放っておいたら焦げちゃうわね。」
 母は小走りで部屋から出て行き、階段を下りていった。ドタドタとうるさい音がした。
「…なんじゃい騒々しい…。」
 隣の部屋からしわがれた声がした。その声の主もまた、レフィルの部屋に入ってきた。
「まだこんな時間ではないか…。迷惑きわまりない…のうレフィル。」
 老人の声に答えることなくレフィルは静かに寝息をたてていた。
「……Zzzz。」

―レフィル…今日は16歳の誕生日、ついにこの時がきたわね…。
 いよいよか…。
―勇者オルテガの子として、旅に出る日ね。
 うん…。
―どうしたの?旅に出るのが辛いの?
 だって…そうしたら、母さんと爺ちゃんを残して行くことになるんだよ…?
―私だってレフィルと一緒に暮らしたい…いつまでも離れたくない…。
 …母さん。
―でも、子はいつか、親元を離れて行く。そうでしょう?
 ……。
―さぁ、目覚めなさい。…そして、行きなさい。
「…んん〜…。…もう朝?」
 顔にかかった木漏れ日を感じとり、レフィルはようやく目覚めた。