第六話 武器商人トルネコ
 灯台であるにも関らず、暗い闇に覆われている塔の入り口に…一人の小太りの男が佇んでいた…。背中には様々な荷物を積んでいる事から行商人か、重装備の冒険者…とも思えるが…。
ギェエエエエエエッ!!
 そんな彼に向かって一匹の魔物が空から攻撃を仕掛けてきた。しかし、男は慌てた様子も無く…おもむろに荷物から何かを取り出して強襲者に向けた。
ドッ!
ギャアアアアッ!
 耳障りな悲鳴を上げながら地面に激突し、そのままのた打ち回る魔物へと駆け出して手にした武器…鋼鉄製の剣を急所へと突き立てた。

 魔物を倒した男はそのまま地面へと座り込んでふぅ…と一息ついた。そして荷物に積んだ壷から一本の長いパンを取り出してかじりつき始めた。食べている途中で少し詰まらせて慌てて水を飲んだりもしたが…少なくとも先程の緊張感は何処にも無く、穏やかな顔つきであった。
 食事を終えて…男は改めて自分の荷物を確認した。鍛え上げられた匠の剣と重厚な大盾…毒の塗られた矢の束やいかにも強い魔力を秘めているような雰囲気を持つ魔法の杖が入った壷…。それらを見て意を決したように足踏みをした後、塔の中へと入っていった。
 
 宙を舞う軍刀や矢を撃つ小悪魔などの魔物を、持ち込んだ道具を的確なタイミングで使って翻弄しつつ、男は塔の最深部へと向かった。
「オイ、トルネコとか言うニンゲンがこの灯台の中に入ってきたらしいぜ?」
「ホントかよ?…んん?そういやニンゲンの匂いがしないでもないな。」
「!」
 二匹の魔物…小さな悪魔ミニデーモン達の話し声を耳にして、男は立ち止まった。
「…どうする?とっちめて喰っちまおうか?」
「噂じゃ相当デブなおっさんだって聞いたからな。…はは。」
 ミニデーモン達は不気味な笑みを浮かべつつ舌なめずりをした。
「じゃ、行こうか。」
 嬉々とした様子で一匹が手にしたフォークを杖に立ち上がった。
「そうこなく…」
シュゴオオオオオッ!!
ギャア…
 断末魔の悲鳴をかき消すまでの凄まじい炎がミニデーモンを覆い尽くした。
「うげ…!もう来やがっ…うぎゃああっ!!」
 身構える暇も無く、残った一体もその身を切り裂かれて命を失った。
 二匹の末路を見据えることも無く、男…トルネコは更に奥へと進んでいった。
「やべ…!トルネコだ!!」
 一人の人間が魔物達を斬り…焼き払い…時には動きを封じながら着実に上の階へと昇っていくのを見て…見張りの魔物がオタオタと慌てふためいた。
「と…とりあえず……灯台タイガー様に報告だ!ルーラ!!」
 魔物は天へと掌を翳して呪文を唱えた。同時に勢い良く体が浮かび上がる…!
ごちんっ!
「ぐえ…!」
 しかし、天井があることを失念していたのか…魔物はそこに激突して意識を失ってそのまま地面へと崩れ落ちた。
「……!!」
 遠目からその様子を見ていた報告の対象…トルネコは思わず頭を抑えつつ肩を竦めた。痛そうだな…と思いつつ。

「ちぃっ!ここまで来るニンゲンが居ようとは!!まぁいい、生きては帰さんぞ!」
 案の定…灯台の最上部にはいかにも強いと思われる魔物達が佇んでいた。そのど真ん中にいる虎の様な魔物が件の灯台タイガーであろうか…なんともダイレクトな名前である…。
「やっちまえ!!」
 魔物の射手…アローインプ達が一斉にトルネコへと矢を放とうとした。…しかし、それよりも速い挙動でトルネコは荷物から何かを取り出した。…次の瞬間!
「…うぉっ!?」
 辺りに甘い香りが漂い…魔物たちは次々と眠りに堕ちていった。その中で…眠気に堪えた数体の魔物とトルネコが対峙して向き合っている。
「ラリホー草だと…!?」
 灯台タイガーが満足に驚く暇も与えず、トルネコは素早く次の手を打った。
「雷の轟きをここに…イオ!」
 取り出した巻物を読み上げ、秘められた力を解放して辺りを爆発に包んだ。
「ぎゃああああっ!!」
 全員を爆発で叩き伏せて、トルネコは灯台の火の台座へと向かった。そして、荷物から一つのビンを取り出した。中で普通より明るい光を放つ小さな炎が静かに燃えている…。