第七話 謎の旅人
「…シンシア……」
 廃墟の中央の墓標にある二つの人影…その内の一つがそれに手をかけながら膝を屈した。

―メラゾーマ!!
―…あ………

「……どうしてこんな事に……ねぇ…どうして…?」
 彼女の言葉に答えた者は誰も居なかった。その場にいたもう一人も含めて…
「どうせなら……私も一緒に…あんた、どうして私を助けたの…?」
 しかし何も答えは返ってこなかった。
「どうしてあの場で死なせてくれなかったの!?ねぇっ!!」
 喚きながら少女はその者へと掴みかかった。
ブンッ!!ドサッ…!
「…痛……本当なら私は……」
 少女は自分を投げ飛ばした奇妙なローブと帽子で全身を隠した小柄な旅人に涙に潤んだ目を向けていた…。

―エズナ…あなたと一緒で…妹が出来たみたいで楽しかったわ…。
―いや!!行かないで!!シンシア!!
―あなただけでも…生きて…。

―居たぞ!!…さっきのは偽者だ!!
―…に…せもの…?…じゃあ…シンシアはアンタ達が……!
―逃げたぞ!!追えっ!!!

「…私は……あいつらが憎い…シンシアを……お母さんを殺した奴等を根絶やしにしたい…!!」
『……。』
「…力が欲しい……!」 
 少女…エズナは掌を裂かんばかりの力で手を強く握り締めた…!
ヒュンッ!!ドスッ!
 その様な彼女の目の前に、何かが突き刺さった。
「……?…あなた…何を…?」
 それは旅人が腰に差していた一振りの剣だった。
パシッ
 続いて投げて寄越されたその鞘を今度はエズナ自身の手で受け取る。
「…助けた理由?…私を……一人前の勇者にするため…??」

―勇者は何処だ!!
―ここで仕留めろ!!
―あの忌まわしい予言を勇者の死を以って!!

「……どうして…勇者の事を…?…え?今はそんな事どうでもいいだろって?」
 エズナは旅人の言葉に暫く呆気に取られていたが…やがて…
「そうね……。あなたが何を考えてるかはこの際どうでもいいわ…。」
 
「この命に代えても…魔物も魔族も……全部滅ぼしてやるんだから…。」
 その顔には既に悲しみも怒りも…何も感じられない冷たい表情が浮かんでいた。
「ところで…あなた…名前は?」
「……そう、ゴルゴンって呼べばいいのね。分かったわ。」
 彼女は小柄な旅人…ゴルゴンに手を差し伸べてその手をしっかりと握り締めた。