第四話 裏切り(中編)
 こちらに向かってくる者…それは全て自分達の形を取っている…。しかし、今更取り繕うつもりも無いのか、本能を剥き出しにして襲い掛かってきた。
「ああ…もう…今日はなんて日なの…!」
 自分達の姿を取る者達が襲い掛かってくる…!
「くっ…!あたしの呪文じゃ……」
 数が多いのを逆手に取って一気に倒す事も出来るが…
「…?何よ、あんたも魔物なんでしょ?死にたくなければ…」
 青年が語りかけてきたのに対し、マーニャは訝しげな視線を送った。しかし…
「え?」
 彼が荷物から何かを取り出してそれを自分へと向けた。
「な…何よ…!あんた…あたしに何を…」
 苛立ちが募って、彼女は青年に掴みかかろうとした。しかし…
『え…?』
 手が出ない…。と言うより足も無い…!
『……ま…まさか……!』
ズウウウウン!
『…ひっ!!』
 気付いたら隣には全身に傷跡がある漆黒の巨竜が自分をじっと見つめている…。その瞳に移っていたのは…!
―…め…メタルスライムぅ〜っ!?
 緑色の瞳に、銀色に輝くスライムの姿が映し出されていた。
『メタルダ!!』
『ウマソウダ!!』
『クッチマウゾ!!』
 人型の魔物達の目の色が変わって、一気に自分の方に向かって走ってきた。
『い…やぁあああああああっ!!?』
 メタルスライムと化したマーニャは追いかけてくる者達を遥かに上回るスピードで逃げ回った。
カッ!!
『…えっ?』
 その途中で突然強烈な光が辺りを包んだ。
『何…この光…?』
 その光の出所を見ると…黒竜が抱えている丸い何かであった。
―あれって……
 考える間もなく、マーニャは影になる場所に隠れて成り行きを見守った。
グオオオオゥン!!
ギィエエエエエッ!!
 竜の咆哮が洞窟に響き渡る中、光に包まれた魔物達が奇声を上げた。
『…どうなってるの…!?』
 黒きドラゴンは、化けの皮を剥がれた魔物の群れに向き合った。
『オ…オノレ……!キサマ……ナニモノダ…!?』
 魔物の中の一体が、目の前に立つ圧倒的な存在に尋ねた。
ズバアアアアアッ!!
ギャアアアアアアアッ!!
 しかし、その答えは鋭い爪による八つ裂きの刑であった。それによる断末魔を合図に、他の魔物達が一斉に彼に襲い掛かる…!
―…ま…待ってよ…!今あたしも魔物の状態じゃない…!!
 マーニャは本物の魔物がその上位種に引き裂かれたり、食いちぎられたりしているのを見ながらその銀色の体をプルプルと震わせた。
『オ…オノレ………ンゴトキ…ガ…ギョプ…』
 そして…最後の一体が踏み潰された。その瞬間、メタルスライムの変化が解けて、元の姿に戻った。
グルルルル…
「!」
 しかし、安堵するのも束の間、竜の唸り声を聞き…身を竦ませた。
―元の姿に戻れたけど…どうしろっていうのよぉ…あんな化けモンなんかと戦ったって勝ち目なんか無いじゃない…!
 活路を思索している内にも足音は次第にこちらへと近づいてくる…。どうやら既にすぐ近くに居るようだ。
「もぉヤケクソよ!!」
 マーニャは物陰から飛び出して、竜の正面に立った。
「メラミ!」
 巨大な魔物の顔面に向かって、特大の火炎弾を放った。
ドォオオオン!!
 それは爆発を起こして、竜の鱗の何枚かを吹き飛ばした…が、それだけの事だった。
「やばっ…!」
「離れて!姉さん!!」
「…!ミネア…!?」
 竜の懐に、一人の少女が飛び込み、手にした剣で胸を突き刺した。

(第四話 裏切り(中編) 完)