第三話 裏切り(前編)
「いや〜助けてぇ〜!」
「食べられちゃう〜っ!!」
 青年は二匹の魔物に追われている二人の少女の姿を見た。そしてすぐに駆け寄ろうとするが…。
『『私達じゃなくてオマエがな!!』』
「……。」
 突然伸びた腕からの爪が青年の体を掠めた。

「騙されないわよ!これで何回目だと思っているワケ!?」
 浅黒色の肌を持つ双子の姉妹がこちらを険しい表情で睨みつけている。青年は黙ってクロスボウを構えた。
「何よ!?やる気なの?上等じゃ…」
ドッ!!
「かっ……!」
 当身が見事に決まり、マーニャは壁に寄りかかるようにして倒れた。それを見たミネアは素早く得物の剣を引き抜き、彼に突きつけた。
「よくも姉さんを…!!」
 それは容易く青年のクロスボウを断ち切り、彼は舌打ちしながら銅製の剣を手に取った。
「手間が省けて良いじゃない!!」
 しかし、何を思ったかミネアは突然マーニャに向けて剣を振り下ろした。
「!?」
 突然自分を殺そうと剣を振り下ろしてくる妹の下卑じみた表情を見てマーニャは恐怖し…これ以上何も考えられず目を閉じた。
―どうして…!?
ザクッ!!
「……え?」
 しかし、刃はマーニャの喉元でピタリと止まった。その主は虚を突かれたような表情で固まっている…。
「あ…あんた…」
 見る見るうちに妹の形が崩れ、全く別の存在へと変わり…そして事切れた。
「…そ…そんな……ミネアが…」
 共に居た者が魔物であった…。気を完全に許せば自分も喰われていたかもしれない…。
「来ないで!あんたもどうせ魔物が化けてるんでしょ!?」
 しかし、青年は黙って彼女に近寄ろうとした…。
「ッ!!ベギラマッ!!」
 舌打ちしつつマーニャは青年へと呪文を放った。
シュゴオオオオッ!!
 しかし、炎が青年を焼く事は無かった。彼は腰に差した細身の剣の柄に手をかけた体制で自分と対峙している…!
「来ないでっていってるでしょ!!」
 半狂乱になって、自分が持つ唯一の武器、毒牙のナイフを手に取り、一気に青年の懐へと飛び込んだ。
ゴウアアアアアゥ!!
グギャアアアアアッ!!
ギャギャギャギャ!!
「「!」」
 その時、奥の方から魔物の大群が押し寄せてきた。