第二話 旅立ち
「へぇ、やるじゃない…。」
 魔物の急所を的確に射抜いた矢を放った主を見て、浅黒の髪を持つ少女が感心していた。
「二人ともお怪我は有りませんか?」
 彼女と瓜二つな顔立ちのもう一人の少女が青年に歩み寄り、体を診た。
「…あら、傷は浅いみたいですが…毒を受けているみたいですね…。」
「あ、ホント。ミネア、キアリーをかけてあげなさい。」
「うん、姉さん。」
   体が無事なのを確認すると、オレンジのローブを纏った方の少女…ミネアが呪文を唱えた。
「ふふ、お気になさらないで下さい。」
「あら、あんた何か嬉しそうじゃない?」
「…!べ…別に…!」
 旅路を行きながら、青年は彼女らの掛け合いに僅かに笑った…そんな気がした。
 
「やはり…砂漠越えには馬車が要りますが…。」
 
「えっ?これしきの砂嵐が何だだって?うんうん、流石勇者クン。言う事が違う〜。」
「お気持ちは察しますが…この強風が吹き荒れる砂漠の話はご存知ですか。」

「…そうですか。では…」
 ミネアが伝説を語り終えたときには何処か納得したように頷いた。
「しかし…気になりますよね。彼がどうして心を閉ざすようになってしまったのかが…。こっそり占わせていただいた所…東の洞窟に何かが有るようですが…。」
「んな悠長なコトしないでこの馬車持ってっちゃえば良いのよ!」
 マーニャは白馬が引く馬車に勝手に乗り込んで手綱を引いた。
ブルルルルルルッ
 しかし、馬は一向に動こうとしない。
「……駄目ね。よっぽどあの人に懐いているみたい。どうしても馬車を手に入れたければ東の洞窟に行くしかないみたい。」
「え〜?そんなぁ〜。」
 ミネアの言葉にマーニャはガックリと肩を落とした。

「ここが例の洞窟ね…。」
 入ってすぐに巨大な脆そうな岩が道を塞ぎ、その内を隠していた。
「勇者クン、ミネア。下がってなさい。」
 マーニャは二人を下がらせて掌をそれへと翳した。
「イオ!」
 小さな爆発が随所で巻き起こり、その衝撃で岩に亀裂が入った。そして次にはガラガラと崩れて一気に道が開けた。
「…姐さんらしくない……。」
「何か言った?…あっ!勇者クン!今キミも笑ったでしょ!?」
 マーニャが細い腕で青年に絡んできた。…が、彼はそれでも特に慌てた様子も無い。
「むぅううう…ひどいわよぉ。少しは反論して……え?反論しようが無い……って、そんなぁ…。」
「路銀をカジノに全部使っておいてよくもそう言えるわね…。」
「きぃいいいいっ!もう少しで今までの負けを取り戻せたのにぃ…!!!あんたが邪魔するから…」
ガコンッ!
 口げんかを始めた姉妹…しかし…
「「!!?」」
 最後までそれは続かず二人は何時の間にか青年の傍らから姿を消していた。

(第二話 旅立ち 完)