第一話 邂逅
 青年は山を下り、ブランカの街で一泊し…そこで集めた情報を元に次の行き先…エンドールへのルートを思索していた。
「おい!聞いたか!?予言にあった勇者サマが死んでしまわれたそうだ!!」
 酒場で噂されるのは少女の死…彼の耳に届く多くの話はそれであった。
「……ハ…所詮は予言に過ぎないって事か…。」
「今まで幾つ外れたか知らねぇなんてな…。ま、目の黒い内に平和に過ごせりゃそれで良いよな。」
 そう言いながらも男の顔には…何処か不安な表情が浮かんでいた。
「…ま、楽しくやろうぜ。おねーちゃん!!お代わり二杯!!」
 酒場での喧騒を気にする事無く、青年は目の前に運ばれた料理を着々と平らげて、手帳を片手に外へと出て行った。

 エンドールへの旅路…青年は突然現れたこの世界ではポピュラーな魔物の一つ、ももんじゃと対峙していた。腰に差した細身の剣ではなく手にした銅製の剣…少女の唯一の形見を手に青年は魔物へと疾駆した。
ガッ!!
 頭をひと殴りしただけでその魔物は昏倒した。…しかし、止めを刺す気は無いのか…彼は魔物から踵を返して去っていった。

「エンドールへようこそ!旅の方!」
 洞窟を抜けると所々に太った男の像が立ち並ぶ街道が続いており、それを辿ると石造りの大きな城を背にした美しい城下町が堅牢な外壁に開いた門の中にあった。近くに宿が見えたので、青年はとりあえずそこに向かう事にした。
「旅の宿へようこそ。ご予約の方ですか?」
 中を見るとかなり多くの者が集っているようだ。
「もうすぐモニカ王女の結婚式なのよね…!」
「はるばるボンモールから来たんじゃ!リック坊ちゃんの晴れ姿を…」
 その様な話が慌しいエントランスから聞こえてくる…。
「そうですか…。申し訳ありません…。せめて他の宿のご紹介だけでも…。」
 普段ならば自分の首を絞めるような行いであるが…状況が状況らしい。青年は受付の男が言った事を手帳にまとめた後、宿を出た。

 路頭に迷った彼の目に入ってきた物は随所に立てられた屋台であった。売っている多くの物は祭事の時に食べる軽食やアクセサリー等であった。騒がしく周りの客に呼びかける者達の声が響く中、青年の目は別の方に向いていた。

「いらっしゃいませ、トルネコ武具店へようこそ!只今モニカ王女ご成婚祝いセール実施中です!」
 かなりの大盛況の様だ。所々に売り切れの文字が並んでいる…。売れ残った品々もいつ無くなってもおかしくないほどの状態だった。青年はその中の一つを取り、店主らしき女性に手渡した。
「クロスボウですか?ありがとうございます。お会計は150ゴールドとなります。」  かなり使い込まれた品であったための破格の値段ではあっただろうに、新品に勝る感触が彼の手に伝わってくる…。

「こんばんは。占いは如何ですか?」
 一通り街を歩いても見かけない艶のある浅黒の肌…。頭に銀色の冠型の髪飾りを付けてオレンジ色のローブに身を包んだ少女が青年へと向き直った。
「え?やり方が分からない?大丈夫ですよ。ただこう…水晶を覗いてくだされば結構ですから。」
 親しげに話し掛けれ来るのを見て断るのも難だと思い、青年は10ゴールドを差し出しそうとした。
「……。」
 しかし、少女はそれに気付かず水晶玉を覗き続けている…。見ると既に変化が現れ始めていた。
「見えます…一度は完全に途絶えた光…しかし、今再び蘇り…」
 魔力を用いた占いの一種だろうと彼は察していた。
「やがて一筋に過ぎなかったそれは次第に大きくなり…八つの魂を導く光となって…」
 しかし言葉はそこで途絶えて水晶玉の変化も途絶えた。
「……っ!?」
 急に様子が変わった少女の様子を青年は怪訝な顔で見つめた。
「何かが…違う……でも…まさか……!!」
 彼に構わず彼女は思案に耽っていた…。しかし、余りに長く続いたので青年は声をかけた。
「あ…!!すみません…!で…ですが…!」

(第一話 邂逅 完)