プロローグ 平和の瓦解

 長く続いていた平和が

 今、終わりを告げた


 パラメキア帝国の皇帝が

 魔界から魔物を呼び出し

 世界征服に乗り出したのである


 これに対し反乱軍は

 フィン王国において立ち上がったが

 帝国の総攻撃に遭い城を奪われ

 辺境の町アルテアへと撤退を余儀なくされた


 ここフィン王国に住む四人の若者も

 帝国の攻撃によって両親を奪われ

 執拗な敵の追っ手から逃げ続けていた



プロローグ 平和の瓦解


 深い森…地面には木の根が張って足場の悪い中…
「足を止めるな!!追いつかれたら終わりだ!!」
 四人の若者がひた走り続けていた。その表情は脅威から逃れようと必死になっているのが見て取れる。
「…くそ…戦う事さえ出来れば…!!」
 蒼い髪を持つ青年が腰に帯びた大刀に手をかけながら後ろを一瞥しながら忌々しげにそう呟いていた。
「レオンハルト、だめ。あいつら、ばけもの。」
「そうだ、レオン!戦って勝てる相手じゃない!」
「ガイ…、フリオニール…」
 片言の言葉を話す巨漢…ガイと、長い銀色の髪を後ろで結った青年―フリオニールに諭され、彼…レオンハルトは悔しそうに俯いた。
「はぁ…はぁ……」
「マリア!」
 後ろで走っていた女性…マリアが息を切らして顔色を悪くしている。ずっと逃げ続けている中で、体力が尽きてしまったのだろう。
「…おれ、せおう。」
「ガイ…ごめんね。」
 ガイがすぐに彼女の手を引き、その大きな背中へと乗せる。

ドドドドドドッ!!

「……くそ!!追いつかれる…!」
 だが、彼らの必死の逃走も虚しく、追っ手は既にすぐ後ろまで迫っていた。馬の蹄が地を踏みしめる音が段々と大きくなっていく…。
「黒騎士!!」
 それは、騎馬共に全身を漆黒に彩られた…不気味な雰囲気を纏う、魔性の騎士団であった。森の中であるにも関わらず、常識では考えられない程のスピードを以って、彼ら―黒騎士団はレオンハルト達を追いかけていた。
「ちぃいっ!!」
 レオンハルトは舌打ちしつつ腰の大刀を抜き放つ。
「フリオニール!俺がこいつらを引きつける!お前は二人を連れて逃げろ!!」
「よせ!レオン!!」
 フリオニール達が制止するのも既に遅く、彼は黒騎士達へ向けて単身斬り込んでいった。

ギンッ!!

「…く……!」
 一体の黒騎士と剣を交える。だが、完全に力負けしている…!

ドッ!!

「…ぐぁ…!!!」
 弾き飛ばされた所に槍が投じられて、鎧ごと…レオンハルトの胸を貫いた。
―俺は……死ぬ…のか…
「レ…レオン!!」
「いやぁ!!兄さん!!」
 仲間達と妹の悲鳴が聞こえる…。
―……何を…している…はや…く…
 だが、そんな事を望んでいるのではない。お前達は逃げろ…。そう叫びたかったが声も出ない。
「マリア!」
「……っ!!」

ドスッ!!
 
 ガイもまた、マリアを庇って黒騎士の槍に突き刺されて倒れ、そのまま動かなくなった。
「ガイ!!」
「く…下がれ!マリア!!」
 やむを得ずフリオニールが腰の剣を抜き、黒騎士へと応じる。

ズバッ!!
「がぁあっ!!」
 しかし、逃げ続けるしかなかった彼程度の剣の腕前では、黒騎士に敵うはずも無かった。彼は剣を交えるまでも無く、実に呆気なく斬り伏せられた。
「……あ………」
 残されたマリアが黒騎士達に怯えの表情を見せつつ後ろへと下がる…。

ズンッ!!

「……!!」
 だが、無情にも…黒騎士は斧を振り下ろし、その体を切り裂いた。彼女はうめきを上げる間も無く、地面に伏して…血を流し続けた…。
『ダークナイト様!ネズミどもを仕留めました!』
『よし、引き上げるぞ。』

ドドドドドドド……

 薄れゆく意識の中で、馬を走らせる音が徐々に小さくなっていく…。
―………ば…かな……こん…なこと…が……こんな…理不尽が……何故許される…!
 最後に見た救われぬ結果…。命をかけて戦ったところで、暴虐の徒を退ける事は出来ず、皆が死んでいった。
―…何故だ……
 答えを出せぬまま…レオンハルトは意識を手放した……。