7.王都に集う1

 ひび割れた市街の最中に幾つもの剣戟が鳴り響いている。町中を闊歩する幾つもの金属の靴音と、急襲を前に逃げ惑うしかない人々の流れで、戦禍の轟きが奏でられていた。
 魔族の手により開発された魔装鋼の装甲は呪文も並の剣も通さず、巨駆とその厚さにより圧倒的な力をも有する魔王軍の新たなる戦力。魔装の巨兵・デッドアーマーの軍勢が人間の兵士や冒険者達を圧倒していた。
 それを筆頭として、次々と攻め入る魔王軍の前に、かつて勇者に救われたとされるこのパプニカ王国は再び陥落の危機を迎えようとしていた。

『モシカシテ、めりっさ?』

 ここにもまた、同じように巻き込まれている者達がデッド・アーマーの群れと戦っている。その戦列に加わる最中で、白い竜・イースは知己の姿を仲間の中に見出していた。

「あら、イースじゃない。それにあなたも久しぶりね。」
『ダネ。一月ブリ?』

 濃緑を基調としたケープと幅広の帽子に身を包んだ赤髪碧眼の麗人が振り向くと共に親しげに呼びかけに応えていた。

 氷炎魔人フレイザードにより、迷い人の町を追われてから、住民達は地上の各地に散っていった。イースと少女もまた、かつて密偵として滞在したカールの跡地に戻って来たが、更なる修行のためにすぐに世界を渡り歩く日々へと身を投じていた。
 記憶の彼方の時に宿された”悪魔”たる者の力と、力をかき消す凍てつく波動、そして全てを飲み込む闇の霧に潜む意思。己に纏わるこのような怪異にどう向き合い、仲間のために何が出来るのかを、ひたすらに求め続ける果て無き旅路だった。

 その中で数々の出会いと別れを繰り返すにつれ知り合った一人がこの女性、魔女メリッサだった。彼女もまた異世界の人間であり、穏やかで優しげな表情の内に常人ならざる雰囲気を纏っていた。

「積もる話もあるけれど、今はこの状況をどうにかするのが先よね。」

 苦楽を共にしてきた友人としての再会を喜びながらも、メリッサは今も尚町を蹂躙している鎧の魔物の群れへと注意を向ける。

『ドウニモナラナイト思ウケドナー……。逃ゲルナラ手伝ウケド。』

 腕に憶えのある戦士達が足止めしているものの、魔装の金属を貫けるだけの武器が普及しているはずもなく、まともに太刀打ち出来る者は一握りに過ぎない。
 拮抗を維持しているものの有効な戦術に欠いている以上、依然として大きい戦力の差に任せてこの場が破られるのも時間の問題だった。

「大丈夫よ、この人形達なら弱点を突くだけで多分なんとかなるから。」
『タブンッテ……ホントニダイジョブカナー。』
「そうね、だったらちょっと”力”を貸してくださらない?」

 それを覆そうと言うのであれば、懐疑的に思わざるを得ない。そうした言葉ももっともとばかりに頷くと共に、メリッサは竜の背に乗る少女に対して助力を頼んでいた。

「バイキルト」

 一度は言葉の意味をはかり兼ねたが、すぐに求めんとするものを察した少女の呪文が静かに唱えられると共に、鋼鉄の籠手から覗かせる細長い指先からその力がメリッサへと注がれる。

「ありがとう。皆下がって、ちょっと火遊びするわよ。」

 炎のような赤い霊光、自身から引き出された力が満ちていく様に満足そうに微笑みながら、メリッサは前線で戦う仲間達に呼びかけた。

「火遊びって、何を……」
「バカ! アレがくるぞ!!」

 唐突に魔女が言い放ったどこか魅惑的ながらも強烈な言葉を前に多くの者が一瞬の戸惑いを露わにする。だが、これから何がなされようとしているのかを知る者は、なりふり構わず彼女の言葉通りに後ろに下がり、皆にも促していた。

「じゃあ、始めるわね。」

 撤退の隙を突いて追い縋り、拳で打ち据えんと迫るデッド・アーマーを前にも一歩も引かず、いつしかメリッサの手に取っていた炎を纏った鎖の鞭が勢いよく振るわれる。
 バイキルトに呼び起こされた力が燃え盛る鞭を伝い、巻き付いたデッド・アーマーの装甲を紙のように引き裂き、一瞬で瓦解させていく。

「舞いなさい、炎の鳥達よ。」

 体勢の立て直しの隙を突いた追撃を退けたことを確認したかのように、メリッサは十字状の形状をした真紅の手裏剣を手に取り、デッド・アーマーの群れに向かって一心に打ち放っていた。
 投じられたそれは炎を纏うと共に中心から四つの刃に分かたれ、それぞれが意思を持った猛禽の如く敵に向けて飛来し始めていく。手裏剣の域を外れて自由自在に舞う刃達は、バイキルトによる闘気に近しき力と身に纏った炎を以て、先の鞭と同じようにデッド・アーマーの装甲を容易く引き裂いていく。それで尚も勢いを落とさず、縦横無尽に駆け回る中で魔装の騎士達を斬り刻んでいく。

『オオゥ……微塵切リ……ッテカ、千切リ……?』

 見るも哀れなまでに幾度も両断され、瓦礫の山と化した魔装鉱の塊を前に、イースはおどけながらも驚きを禁じ得ない様子だった。その尽くが力任せに破壊したり焼き切った跡ではなく滑らかな鏡面を成しており、力に依らずに綺麗に斬り裂かれたことが伺えた。

「炎のブーメランを仕込んでいたのか……。」
「しかし何故ああも容易く引き裂けるんだ……。」

 メリッサが投じてデッド・アーマー達を全滅させた十字状の武器は、炎のブーメランと呼ばれる投擲武器を束ねた代物だった。独自の改良を加えて四つの刃が炎の魔法力を纏ってそれぞれが飼い慣らされた鳥の如く独立した動きを持って敵に襲いかかる。
 バイキルトの支援を受けているものの、その武器一つだけで状況をひっくり返したか弱い魔女を前に、多くの者が驚愕してこの不可解を怪訝に思っていた。

「おーい、こっちは片づいたぞ!」

 その一方で、別の隊を成している者達が合流してきた。不利な状況を機転と精鋭による戦力で覆し、彼らもまたデッド・アーマーの小隊と言うべき敵勢を撃破してきたところだった。

「お疲れさま。このまま時間を稼いでいれば良いのよね?」
「ああ。後は神父様がなんとかしてくれるはずだ。この戦力で正面衝突しても無事じゃあ済まないだろうからな。ルーラさえ使えるようになれば一発なのだが。」

 互いに労い合う中で、この戦いの目的が確かめ合うような会話の中に乗せられる。
 突如として現れたデッド・アーマーの群れの到来と共に町全体を結界が覆い尽くし、ルーラの呪文を封じ込めていた。広く使われている移動手段を奪われた今、別の脱出方法を準備しなければならない。
 旅の扉の管理人たる迷い人の町の神父。王の装備を以て守人としての役割を果たす王と双璧をなすと言われる有力者にして大神官とも称される比類なき魔導師。今は彼の力に縋るより他、戦場に立てぬ民達の命を守る術はない。
 今はその目的のために、異世界の戦士達は一丸となって未知の脅威に立ち向かっていた。

「この鎧の怪物相手だったら、魔法戦士隊でもいれば十分戦えるのにね。……嫌なことを思い出させて申し訳ないけれど。」
「まあいるにはいるが練度が足りなくてな。流石に短期間では……な。」
「そうね……。でも、あなた達の力はこの世界に必要なものなのよね。」

 迷い人の町が壊滅し、多くの戦士達が命を落としたことはメリッサの耳にも届いており、既に彼らとの交流の中で幾度も語られたことだった。

 呪文と剣の双方を操るだけに止まらず、呪文や魔法力を剣に纏わせる技をも操る魔法戦士。その特異な戦法はこの世界においても更に磨きがかかっており、様々な敵に対する弱点を突ける可能性を有し、それは今も例外ではなかった。
 だが、その修練も並々ならぬものであり、戦士と魔法使いの双方として高い力量を持たぬ限りは本質的な強みを得ることは出来ない。勇者にも迫る資質がない限りは成熟には多大な時間の中での弛まぬ精進が求められた。

 故に、迷い人の町の襲撃の折りに、フレイザードの手により呪文と力の大半を封じられた魔法戦士が大勢犠牲になったことは、何よりも大きな痛手であった。彼らの遺志を引き継いだ者達の習熟を待たずして、この苦境が訪れることになったのもその強大な力の代償を体現しているかのようだった。

「ところで、力任せに斬り払っちゃうあなたも随分ワイルドよねえ。」

 鎮静化した状況の中で、メリッサは改めてイースの背に乗る少女に微笑みながら語りかけていた。
 苔を思わせる緑色の竜鱗に覆われた帷子状の鎧に身を包み、魔法の刺繍が施された紫の外套を羽織っている。その身の半分程も覆う背負った紺碧の大盾と、手にしたメタルキングの剣の他に腰に帯びたもう一振りの剣。
 それらのいずれも優れた品と一目見て分かるものの、纏う少女自身に気後れした様子はなく、装備の性能を十分に発揮してデッド・アーマーと真っ向から戦って見事に斬り伏せていた。

『キミガ言ッチャウノ? ソレ……』

 魔法力に依らずメタルキングの剣の硬度と少女自身が持ち得る力に任せてデッド・アーマーを仕留めた様を今の乱戦中に見て苦笑するメリッサに対し、イースは呆れたように嘆息していた。

「ふふっ、ああ見えてコントロールも結構大変なのよ。魔法金属もこうして弱点さえ突ければあっさり斬り裂けるけれど、何度も撃ってたらすぐに魔力も無くなっちゃうからね。」

 縦横無尽に乱舞する火の鳥達が鎧騎士を引き裂いたという余りに鮮烈な様子に驚かれていることに苦笑しながら、メリッサは種を明かすように言葉を返していた。
 少女のバイキルト、炎のブーメランに埋め込まれた魔法石、そしてそれらを操るための莫大な魔法力。それら全てが揃って、初めて魔装鉱を斬り裂くことに特化したあのような芸当を成すことが出来る。
 それは同時に条件が満たされていなければ使えなかったということでもあり、故にあれほどの戦果を上げながらもメリッサ自身には何も誇る様子はなかった。

「あなたも魔力の無駄遣いは出来ないのだろうけれど、あまり防具の力を過信しちゃだめよ。」

 少女もまた魔法戦士達と形は異なれど、戦士として戦う中にあっても呪文の資質を有しており、同じように大きな力の消耗はあろうともデッド・アーマーを容易く打ち破る術はあった。
 優れた装備と技量こそあれ、少女もまた一人の人間に過ぎず、力を温存しようとして返って隙を晒して命取りになり兼ねない場面も幾度となく遭遇している。メリッサの言う通り、今もまたそうした危機に陥らぬように状況を見誤らないようにより一層の注意を払うべきと知れた。

「サミット、だったかしら。確かに各国が持ち直した今だからこそ開くべきなのだろうけど、悪い方向に転んでしまったようね。」

 この戦乱の引き金となったのは、パプニカの王女レオナによる会議の開催、各国の王の招致によるものだった。一時の均衡こそあれ、しぶとく抵抗を重ねる人間の動向に魔王軍や対立する勢力が目を光らせていないはずもない。極秘の内に開かれるはずであったが、その動向は既に魔王軍ばかりか、迷い人達の耳にも届くことになっていた。
 ようやくまともに国交を結べる機が訪れたにしても、同時に各国の頂点に立つ者を一網打尽にする好機を与えることに代わりはなく、現に魔王軍の侵攻を許すことになった。

 機を誤る以前に最初からこの荒唐無稽な道を選んだ王女の決断。その裏にある思惑を支えているのは如何なる要素なのか。
 それでもメリッサはこの荒廃した地を前にしても、彼女の選択をいたずらに責める思いはなかった。  魔王軍魔影軍団との交戦状態に入ったパプニカ王国のいずこかの地下に開けた巨大な空洞。人の手により整えられた地下の聖堂の床に描かれた巨大な聖印と六星の魔法陣に併せて、様々な宝玉や刻印を据え付けられた燭台や台座が配置されている。
 迷い人の町に住んでいた戦う力もない者を初めとする民達が、聖堂騎士の出で立ちをした強者達の守護の下、そのいつ終わるとも知れぬ儀式の準備を不安そうに見守っていた。
 聖域特有の静謐な雰囲気の中での人々のざわめきを斬り裂くように、入り口の扉が勢いよく開かれる。

「ふん……もう来たか。」

 駆けつけた騎士の一人の言伝を聞くより先に、神父はそれが意味することをすぐに悟った。激戦を潜り抜けてここに至った騎士の姿から、人々もまた己が置かれている状況を否応なく理解させられていた。

「この数は抑え切れませんね……。全く、彼らは何をやっていたのだと。」
「致し方あるまい。最初から気づかれていたとあれば、当然の結果であろうよ。」

 元より秘密裏に作られた異端の教会であったが、見つかってしまっては格好の行き止まりでしかない。この場を守る作戦を取ることは容易に想像出来、その隙を突くのは当然のことである。
 なだれ込んで来た敵の数も多く、この場に侵入するのも時間の問題だった。

「ルーラストーンの状態は?」
「はい、各地の町近郊への連結を確認しております。結界の台座も良好です。」
「よし、少し早いが旅の扉を顕現させるぞ。」

 瞬間移動呪文ルーラと基幹を同じくした魔法の触媒ルーラストーン。それらを初めとした様々な異界の産物を根源から理解し、最も安全で扱いやすい形へと集約する。そうした創意工夫が、本を正せば神のなせるものとされていた旅の扉を人の手で体現できる技術を創り出していた。
 神父の合図と共に魔法陣のそれぞれの頂点に立つ者達が唱和するように呪文を紡ぎ始め、旅の扉を完成させていく。程なくして、陣の上に配置されたそれぞれの台座に渦巻く光が現れると共に、中から風が静かに流れ始めてくる。

「さ、疾く参られよ。」

 完全に旅の扉の出現を確認すると共に、神父は控えていた民達に呼びかけていた。旅の扉の管理者と知る迷い人の町の者達が躊躇うことなく前に進み出ていくのを皮切りに、他の人々もまた次々と旅の扉へと飛び込んでいった。

「そなたも間に合ったようだな。」
「すまないね、名無しちゃんや皆にもよろしく言っといておくれよ。」

 かの少女の武具を作った職人サリィもまた、この聖堂に集まった民の中に居合わせていた。彼女を初めとして戦士でなくともこの戦乱の世にあって直接支えとなる者達も民の中には大勢いる。
 彼らだけに留まらず、今も町に取り残されている者達や、一番の得意先にして友人でもある少女を案じながら、彼女もまた旅の扉に足を踏み入れていった。

「待ってくれ! まだパプニカにはおふくろと娘が!」
「気持ちは分かるが、そなたを死なせてしまってはご母堂にも娘御にも申し訳が立たない。今はただ、信じて待つより仕方なかろう。わしも手を尽くしてみせようぞ。」
「……すみません、皆のこと、宜しく頼みます!」

 一方で、家族を戦火の内に残した者も少なくなかった。だが、最早探し出そうにも戦う術を持たぬ者が戦場に残れるはずもない。それでも家族と引き裂かれる焦燥は耐え難きものであるのは百も承知であり、彼らの思いを裏切ってはならないのも確かなことだった。
 町を滅ぼされたという非常に不安定な環境の中で皆を纏め上げている様を直に触れているからこそ、民達の間で不満が具体的な形で爆発することもなく、従順に事を進めてくれている。

 程なくして、この場に集まった民達は皆、旅の扉で遙か彼方の地へと脱出に成功していた。

「さて、少々遅かったようで残念だったな?」

 そしてそのほんの僅か後に、神父は不適な笑みを浮かべながらゆっくりと聖堂の入り口へと向き直っていた。
 いつしか白い衣に身を包んだ黒い影が、静かに神父の前に姿を現している。

「これが旅の扉だ。お気に召したかね、魔影参謀ミストバーン”殿”?」

 その到来に全く動じた様子もなく、神父は侵入者・魔王軍の重鎮たる魔影参謀ミストバーンを大仰に迎えていた。あたかも年来の友人にでも語りかけるような親しげな抑揚でこそあったが、その目には一縷の隙もなく冷徹な視線を宿している。

『異界の者共を束ねし主魁との噂に違わぬようだな。』
「ふん、そう見なされたからこそ貴様のような者が直々に赴いたのだろうがな。」

 戯れ言に何の感慨もないかのように、ミストバーンが神父を白いローブの奥から殺気の籠もった視線を返してくる。怪異とされた異世界の人間を束ねる者として純粋に関心を抱いている節もある様子だったが、神父もまた彼がこの場に赴いたことの意味を理解していた。

『貴様とて例外ではない。人間共は一人残らず皆殺しだ。』

 大魔王バーンより名を賜った側近にして、その意志を代行する執行者たる者。それが人間の前に姿を現すとすれば破滅以外の何物も示すことはない。僅かに語られたその言葉は、この場を守護する騎士達へと確かな死の重圧としてのしかかってきた。

「それは奇遇よな。我らとて、そなたら魔王をかたりし者の下僕共を一匹たりとも生かしておく気はないのだよ!」

 しかし、彼らは全く動じずにミストバーンに向けて各の武器を構えていく。そのような彼らに呼応するように、神父もまたミストバーンに対して敵意を露わに一喝すると共に一斉に矢が放たれ、逃れる間も与えずに貫かんとする。
 だがミストバーンも策も自負もなくただ一人で乗り込むはずもない。放たれた矢は全て突き刺さることなくへし折れて、彼の周りに散らばっていた。

『愚かな……貴様等は大魔王様への最大の大罪を為したに過ぎん!』
「来るぞ!!」

 ミストバーンが怒気を露わにすると共に、強大な闇が暴風となって騎士達に襲いかかる。思わぬ即座の反撃に吹き飛ばされるも、彼らもまたすぐに体勢を整えていく。

「矢が通らない……」
「神父様、やはりこやつは……」
「間違いあるまい。他者に取り憑きし悪霊の類よ。」

 大量の矢を一度に浴びせたにも関わらず、白いローブより吹き出す暗黒闘気は一向に衰える気配がない。邪悪なる生命力である暗黒闘気そのものに実体はないため武器は通じず、ミストバーンもまたその産物である悪霊の一種に属すると見ていた。

「彼奴自身は単なるシャドーなどの有象無象の類に過ぎぬが、その衣の内側も気になる所ではあるな。」

 鋼鉄の矢を跳ね返したのは元より、血の一つも流さず全く痛手を負っていない様子から、肉体そのものも尋常なものではないことが窺える。正面切って戦えば、この世ならざる謎の肉体の強度に圧倒されることとなるだろう。

『詮索など無意味だ。デッド・アーマー共よ、この小賢しい虫けら共を叩き潰せ!!』

 尚も抗おうとすべく様子を窺う人間達を嘲笑うように、ミストバーンは背後に控えていた魔物達に攻撃を命じた。
 呪文の通じずオリハルコンの次に固いと名高い魔装の金属で拵えられた鎧に邪悪な意思が宿った魔影軍団最強の部隊。それが一斉に突撃して、騎士達へと襲いかかる。

「最早これだけの状況で皆を招き入れるわけにもいくまい。各隊に伝令を飛ばそうぞ。」
「御意。」

 人間達が量産出来る装備を上回る力を前に弱点を突いたり連携で対抗しているものの、地力の差は明白であり押し切られるのも時間の問題だった。
 戦況を今も尚戦う者達に報せ、作戦の変更を促すために血路を切り開くことが第一だった。

『逃がすと思っているのか。』
「!!」

 だが、その行動に移そうと思った瞬間、ミストバーンが冷たく言い放つと共に騎士達と神父の足が何かに絡め取られたように動かなくなった。

『驕り高ぶった異世界人共が、既に我が術の内にかかったと知らぬとは笑止千万。』

 ミストバーンの足下を中心として、蜘蛛の巣のように張り巡らされた暗黒闘気の力場に、聖堂の騎士と戦士達全員が縛り付けられている。身動き一つ取れない人間達を前に、ミストバーンは感慨もなく吐き棄てながら更に力を込め始めた。
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